記入要領を含めて8枚ある雇用調整助成金の支給申請書。専門家は「知識のない小さな飲食店や町工場が単独で申請するのは不可能に近い」と指摘する(撮影/編集部・上栗崇)
記入要領を含めて8枚ある雇用調整助成金の支給申請書。専門家は「知識のない小さな飲食店や町工場が単独で申請するのは不可能に近い」と指摘する(撮影/編集部・上栗崇)

 新型コロナウイルスの影響を受ける事業者らを助けるはずの「雇用調整助成金」。しかしその手続きの煩雑さに、助成を希望する人々からは悲鳴が上がっている。AERA 2020年6月1日号の記事を紹介する。

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「もう、ちんぷんかんぷん」

 東京都台東区で乾物店を経営している男性(44)は憤る。新型コロナウイルスの影響で3月の売り上げは5割減、4月は9割減となった。それでも3人の従業員を解雇せず頑張ることにした。そこで、「雇用調整助成金」を申請しようとしたが、その手続きが煩雑極まりないのだ。

 書類の記載項目は40近くある上、「平均賃金額」とか「休業等規模要件」とか聞いたことがない用語がずらりと並ぶ。お手上げ状態になり、地元のハローワークに相談に行き説明を受け、ようやくのみ込めてきたという。

「社会保険労務士に頼めばお金がかかる。こんな面倒くさい書類、国は本当は給付したくないんじゃないか」(男性)

 雇用調整助成金は、売り上げが減少しても従業員を解雇せず休業手当を支払った企業に、国がその一部を助成する制度。従業員の雇用を守りたい企業にとって、まさに「頼みの綱」となるはずだった。だが、各地のハローワークや労働局には相談が殺到。厚生労働省によれば、全国の労働局に寄せられた関連の相談は30万件以上に及ぶ。一体なぜこのような事態になったのか。

 労働法制に詳しい倉重公太朗弁護士は指摘する。

「雇用調整助成金は1970年代からあった制度で、製造業などが生産調整した時に従業員を解雇せず休業させることによって賃金の一部を補助する役割を担っていました。しかし作成作業が煩雑で、人事のエキスパートがいる会社や手続きに慣れている社労士であればともかく、今回のように知識のない小さな飲食店や町工場が単独で申請するのは不可能に近いと思います」

 政府は申請手続きを簡略化し、20日からオンライン申請も可能にしたが、トラブルで稼動は延期された。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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