新政酒造の木桶(おけ)。近い将来、すべて木桶に変える予定だ(写真/高橋希:ozimoncamera)
新政酒造の木桶(おけ)。近い将来、すべて木桶に変える予定だ(写真/高橋希:ozimoncamera)
3000本限定の「亜麻猫VIA」720ミリリットルの瓶は、新政独自のデザイン。ラベルもアマビエっぽく見える(写真/新政酒造提供)
3000本限定の「亜麻猫VIA」720ミリリットルの瓶は、新政独自のデザイン。ラベルもアマビエっぽく見える(写真/新政酒造提供)

「新型コロナウイルス感染拡大で困っている飲食店を応援し、売り上げの一部を医療従事者に贈りたい」

【アマビエにあやかったという限定の「亜麻猫VIA(アマネコヴィア)」はこちら】

 秋田市の新政酒造は今月末、3千本の限定酒「亜麻VIA(アマネコヴィア、通称アマヴィア)」を発売し、飲食店だけに販売する。嘉永5(1852)年創業で、現存する最古の市販清酒酵母、「きょうかい6号酵母」発祥の蔵。2007年に故郷に帰って家業を継いだ佐藤祐輔社長の醸す酒は、すべて純米、手間がかかる生もと(きもと)造りで、表示義務のない発酵補助剤なども一切使わない。仕込みもまだ全量ではないが、業界最多という33本の木桶で行っている。限定酒ではない酒も全国的にファンが多く、地元でもなかなか入手は難しい。3千本はあっという間に売り切れるだろう。

 水木しげる著の「妖怪ビジュアル大図鑑」(講談社)によると、江戸時代に本県の海で「光るものを見た」という報告が相次ぎ、役人がかけつけると、海の中から出現した化け物が「わたくしはアマビエというものである。これから6年間は豊作である。もし疫病がはやったら、人々にわたしの写し絵を見せよ」と予言を残して、海に帰って行ったという。疫病に悩まされているいま、全国でアマビエが注目されている。

 限定酒の名前も、アマビエにあやかった。

 新政の酒(同社では作品と呼ぶ)には、革新的な手法を用いて醸される「Private Lab(プライベートラボ)」ラインがある。清酒用麹に加え、強い酸味を持つ焼酎用白麹を使った「亜麻猫」、アルコール度数は低いが瓶の中でも発酵を続ける発泡性の「天蛙(あまがえる)」、仕込み水の一部を酒に置き換えた貴醸酒である「陽乃鳥(ひのとり)」、麹も掛米も精米歩合90%の「涅槃龜(にるがめ)」と、強い個性派ぞろいだ。

 今回の限定酒は天蛙を除く3種類をブレンドし、「亜麻猫」にVIA(~を経由して)を付けて、アマビエっぽい名前にした。ラベルも亜麻猫に陽乃鳥のくちばしをつけ、涅槃龜のサングラスをかけ、アマビエの容姿に近づけた。同蔵がブレンド酒を造るのは初めてで、ブレンドしたのには、「国民が協力する」という願いを込めたからだという。

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ネパール地震などでも復興支援酒