第1次補正予算の総事業規模は117兆円。財政投融資や地方の支出を含めた財政支出は48.4兆円になる。今後の第2次補正予算でも安倍首相は「この状況に十分な規模で」と表現している。

 ここまでは、よい。ただしカネは湯水のように湧いてくるものではない。政府が巨額支出を実施すれば当然、財政の穴埋めが必要になる。

「コロナ対策に限らず、政府が財政穴埋めのために取れる手段は増税、保険料アップ、自己負担増加の三つしかありません。増税するにしても、数ある税の中からどの税金をどのタイミングで引き上げるか、難しい政治判断になります」

「政治」は過去にどんな判断を下してきたか。2011年3月11日に発生した東日本大震災を振り返ろう。当初は使途を復興に限定した復興債を毎年発行することで資金を調達。金額は直近までの累積で62兆円になった。さらに個人から増税。震災2年後の13年、個人所得税の2.1%相当の復興特別所得税を25年間の時限措置として新設し、翌14年には住民税を一律1千円引き上げた。

 住民税の臨時増額は10年目の23年度で終了すると思ったら、24年度からは「森林環境税」が創設される。税額は住民税1千円増額だ。

 税理士の西原憲一さんは「耳ざわりのいい“環境”というネーミングを付していますが、中身は復興税と同じ。1千円という金額がこれまでと変わらないこともあり、国民は気づきにくい」とし、何かと理由を付けて増税を続けたがる姿勢を批判する。

 政府は今のところ予備費や国債の発行で新型コロナ関連の財源を確保している。日銀は4月27日の金融政策決定会合で国債購入のめどとしていた「年間80兆円」の天井を撤廃し、無制限に国債を買う手はずをすでに整えている。

 財務省によると、19年末の国債発行残高(速報ベース)は1037兆円を超えた。景気や税収、財政需要、金利水準を天秤にかけ、国債を再び発行して借り換えるタイミングを計ることになるが、このうち約半分を日銀が保有しており、野放図な国債発行がどこまで続けられるのか疑問が残る。

 定期的に出ては消える「企業の内部留保への課税」論も現実的ではない。

「内部留保のもとをたどると、企業が利益に対してかかる税金を支払い、株主に配当を出し、役員賞与も払った残りを積み上げたもの。そこへ課税するとなると二重課税です。そもそも企業の税負担を重くしたところで、しわ寄せは人員削減や賃金カットの形でわれわれの家計に及ぶだけでしょう」(西原さん)

(ジャーナリスト・大場宏明、編集部・中島晶子)

AERA 2020年6月1日号より抜粋

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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