さて健診当日、車で小児科に向かいます。付き添いは大人1名のみ。普段は両親そろって受診したり、祖父母が同伴したりという家庭を見るのですが、それは認められません。これが2番目の対策です。そして3番目の対策として、小児科の待合室ではなく、自家用車のなかで順番を待つようになりました。車を駐車場に停めたら、「着きました」とテキストか電話を入れます。すると受付スタッフさんが「了解、順番が来たら呼ぶね」と返信をくれ、ひとつ前の患者一家が建物を出たところを見計らって、「入ってきていいよ」と呼んでくれるのです。普段は予約した意味がないほど長時間待たなければいけないのに、今回は5分ほど待つだけ。なんとも快適でした。車中待機も、コロナ後も続けてほしいと思いました。

 こうした対策を経て、小児科スタッフ以外の人とは一切顔を合わせることなく、診察室へ入ります。これはコロナ前からそうなのですが、小児科の健診は手ぶらで受けることができます。体重・身長などの情報と予防接種歴はすべて電子データで記録されており、赤ちゃんの体重測定をする前にオムツを交換する習慣もなく、診察料は後日請求書が届いてチェックか振込で払います。スマホもオムツもお財布も必要ないのですべて車(の外から見えない場所)に残し、子どもだけを連れて院内へ入ります。持ち物が多いとそれだけで感染のリスクが高まりますから、手ぶらで行けるのも安心感がありました。

 院内は、すっかり殺風景になっていました。絵画や観葉植物といった装飾品が、子どもが触ってウイルスをうつしてしまってはいけないとの理由で撤去されていたのです。いつもお洒落で陽気なドクターがネイルやアクセサリーを外し、雑談を控えて最低限の会話のみにとどめていたこともショックでした。感染拡大対策を徹底してくれていることに感謝しつつ、これだけはコロナ前に戻ってほしいと思いました。

 今回のパンデミックで本当に必要なものとそうでないものが明確になったと感じている方、多いのではないでしょうか。わたしもその一人です。不便だな、でも仕方ないかと受け入れていた慣習が対策次第でなくせるとわかった今、もうコロナ前に戻れる気はしません。一方本当に必要なものは、たとえコロナ禍で一時的になくなったとしても、きっと復活するでしょう。お洒落なドクターの手元に、一日も早くネイルの彩が戻りますように。そう祈りながら、小児科を後にしました。(大井美紗子)

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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