藤田:全く同感です。日本は社会保障が脆弱で、経済が停滞すると死に直結します。失業率や倒産数と自殺率に強い相関関係があるんです。社会・経済が止まることによる死者は感染症で亡くなる方の比ではないくらい出てくると思う。4月、5月の自殺統計を見るのが怖いですね。

東:ところが、医療者が命を守る、経済や社会を回している人たちは生きてなんぼって話になって、経済的に苦しむ人にあまり意識が向いていないのが困った事態ですね。

藤田:出口がわからないことがさらに不安を助長しています。このまま終息に向かえばいいですが、まずは解除の目安をわかりやすく示してほしいです。

東:ウイルスに勝つまで我慢するとやっていたら、社会が壊れて悲惨なことになっていきます。僕は医療崩壊を防ぎつつ、ある程度の感染拡大は受け入れながら社会を回していくべきだと考えていますけれど、その雰囲気はあまりありませんね。

藤田:これまでの状況を見ると、倒産、失業、生活困窮、貧困拡大は免れない。でも、問題提起の視点が見えません。

東:コミュニティーも壊れて、オンラインでは乗り切れない事態も起こると思います。人間関係、友人関係もどんどん変化していく。これも数値化できませんけれども、その恐怖に気づいていかなければ取り返しがつかないことになると思います。

藤田:いまは医学的な専門性に偏りすぎていますよね。医学の専門性と経済や社会の専門性って違うので、本当はさまざまな専門性を持った人たちが議論しなきゃいけないのに、医療の専門家の知見に依存せざるを得なくなっている。

東:そうなんですよ。社会全体の問題ではなくて医学の問題になってしまっている。医学の専門家が提案する施策は社会全体に影響を与えるものだから、本当は別の専門家たちの意見も同じように重視されるはずなのに、政策決定の過程でどのくらい関与できているのか疑問ですね。

藤田:ある一定の専門性は尊重するけれども、もう少しバランス感覚を持って政策を実行してほしいです。「医学の知識がない素人は引っ込んでろ」という風潮があって異を唱えづらい。別の視点が入り込めないのは怖いですね。

(構成/編集部・川口穣)

AERA 2020年5月25日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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