藤田孝典(右):1982年生まれ。社会福祉士。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表/東浩紀(左)/1971年生まれ。批評家、作家。「知のプラットフォーム」の構築を目指して創業した「ゲンロン」の元代表。新刊に『新対話篇』
藤田孝典(右):1982年生まれ。社会福祉士。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表/東浩紀(左)/1971年生まれ。批評家、作家。「知のプラットフォーム」の構築を目指して創業した「ゲンロン」の元代表。新刊に『新対話篇』

 新緑を鮮やかに映し出す、澄み切った空。その空の下、見えないウイルスが気づかせたのは、数値で表せない社会の苦しみでもあった。AERA 2020年5月25日号で、批評家の東浩紀氏と社会福祉士の藤田孝典氏がオンラインで語り合った。

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──政府は5月4日、緊急事態宣言を5月末まで延長することを発表した。専門家会議によると「感染状況」「行動の変容」「医療体制」を総合的に勘案し解除の是非を決めるとしているが、いまだ終息のめどは立たない。大阪府は1日の感染者数、陽性率、重症者用病床の使用率をもとに休業要請を解く条件を定めたが、国レベルでは緊急事態宣言解除の具体的な条件すら明らかにならない状態が長く続いた。

東浩紀:僕自身「ゲンロンカフェ」という人が集まる場を運営していますが、3月頭の段階で半年くらいはできないだろうと覚悟しました。お店をやっている人はみんな同じようなことを感じたと思います。出口戦略、終息のビジョンが見えません。

藤田孝典:私は年間500件ほどの生活困窮者の支援活動をしていますが、今回は史上最悪と言っていい事態です。リーマン・ショックも東日本大震災も経験しましたが、それ以上ですね。日々状況は悪化していて、もう倒産するしかない、家賃を払えないと、みな悲鳴を上げています。「死にたいです」と言われるケースも多くなりました。いつまで我慢すればいいのかわからないのがつらいですね。

東:「感染者数」や「接触率」など数値化が求められているけれど、数字では測れない苦しみも深まっていますよね。でも、政府もマスコミもずっと「この1カ月を乗り切れば」という言い方をしてきました。4月の段階で緊急事態宣言が延長されることは明らかだったのに、連休明けまで乗り切ればなんとかなるとみんなが信じているフリをしていたというか。「無理だよね」と口に出すのもはばかられる雰囲気がありました。

藤田:異を唱えづらい、どこか全体主義的な雰囲気に怖さを感じます。

東:「命を救うためにはやむを得ない」という言い方がされますが、僕は違うと思うんです。命か経済かが問われていますが、経済だって命を守る大事な要素です。今回、8割の接触削減が独り歩きしていますが、感染拡大抑止のシミュレーションがあるならば、それをやればどのくらい失業率が増える、自殺者も増える、心理的圧迫があるというところまで計算して、どうするか考えるべきなんです。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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