そして重要なのは、いわゆる「3密」を避けながらも、実際にはクラスター(感染者集団)が発生した実績のない、学校や換気の整ったオフィス環境などを「工夫しながらまずは元に戻してみる」こと、と話す。

 たとえば、学校では教師も生徒もマスクをして一定の距離をあけて座ったり、オフィスでは必要に応じてマスクを着用し向かい合ってのミーティングや連れだっての昼食は避けたりする。

「感染者は出るかもしれないが、その時は立ち止まって、すぐ対策を取ればいい。流行がいったんは終息し、夏に向かういまやらないでいつやるのか」

 村中医師は、そう強調する。

 というのも、コロナウイルスは、一般に夏に小康状態になり、気温も湿度も低い冬の時期に活発になり流行するからだ。秋口からの本格的な第2波に備え、夏に向かうこれからの時期にこそ、思い切ってできるだけ多くやっておくことが重要になる。

 村中医師が続ける。

「トライアル&エラーを重ね、社会全体の最適化を考えておかないと、夏の間を感染者ほぼゼロで過ごしても、また緊急事態宣言を出すのかという話になります。ウイルスはいなくならないし感染者はゼロにはならない。そのことを前提に議論を進めないと、ワクチンが開発されるまでは企業活動も学校も再開できないということになります」

 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師も、経済を破綻させず被害を最小限に食い止めるには、ワクチンの開発を急ぎながら集団免疫戦略を推し進めることが重要と語る。

「そのためには第1波の検証をしっかり行い、メリハリの利いた対応をとること。金科玉条のように『接触の8割減』を主張するのではなく、抗体検査などの結果も踏まえて流行状況を再評価することが大切です」

 少しずつではあるが、新たな日常が始まった。人命、経済、そして医療。これらのバランスを取りながら、気を緩めず一歩ずつ歩いていく時だ。終わらないパンデミックはない。(編集部・野村昌二)

AERA 2020年5月25日号より抜粋

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら