とはいえ、公立校のオンライン化は容易ではなさそうだ。自治体が一体となって取り組むのは、約30万人分のクラウドアカウントを無料で確保した広島県などごく一部とみられる。文部科学省の調査では、4月16日時点、臨時休業中に公立校においてデジタル教材を扱うのは29%、独自作成の授業動画は10%。双方向型のオンライン指導の実践は5%にとどまる。

 背景には、日本のICT教育の遅れがある。1人あたりのGDPが同程度の国の中で「公教育費が最下位」と言われる日本では、1人1台のパソコンやデジタル端末配布が進んでいない。経済事情のばらつきが大きい公立校の子どもたちが、そのあおりを受けることになる。

 首都圏で非正規公務員として働く40代のシングルマザーは、臨時休校をきっかけに中学1年生の長女にパソコンを購入した。生活費になるはずだった10万円の特別定額給付金をあてにして。セットアップを済ませ、いざ中学のHPから学習サイトへ。と思ったら、画面が進まない。原因はポケットWi‐Fiのギガ切れだ。

「こんなんじゃ、勉強なんて無理だよ!」

 娘にそう言われて泣かれてしまった母親は、こう訴える。

「自宅待機を優先するなら、通信費の補助は学習に必須だ。補助できないなら、学校のパソコン室を開放するなど今ある設備で対応してほしい」

 一方、同じ公立でも、国立大学の付属校はオンライン化が比較的円滑に進んだようだ。

 新潟大学附属新潟小学校は5年前から毎年、段階的にデジタル端末の購入を保護者に依頼してきた。全校児童453人全員が所持したのが今年度。4月22日以降、Zoomで朝の会や双方向の授業を実施。提出、返却などの機能があるアプリ「ロイロノート・スクール」で教員と児童がテキストや動画をやり取りする。

「先生方もある程度の知識があり、保護者の理解もあったからできた」

 5年生担任の椎井慎太郎さん(37)はそう語る。両者の意識が高いのは、最先端の教育を周囲に示す役を担う国立小ならではだろう。(ライター・島沢優子)

AERA 2020年5月25日号より抜粋