長野県安曇野市の県立こども病院は4月25日、地域紙の「市民タイムス」を通じて、個人宅や企業にN95タイプのマスクがあれば提供してほしいと呼び掛けた。工事現場や農家で使う防塵仕様のマスクでも可とする切羽詰まったSOSだった。備蓄が1千枚程度になり、1カ月ほどで使い切ってしまう可能性があったものの、購入のメドが立たなかったという。同病院の担当者は言う。

「感染症の指定病院ではないので、ディーラーを通じて年に何回か仕入れる程度で済んでいたのですが、今回は注文が集中したのか買うことができませんでした。新聞のおかげで皆さまから約2千枚の提供を受けることができて、当座の危機は脱しました。しかし、今後のことも考えると不安は残りますね」

 沖縄県では医療従事者が異業種の勉強会のメンバーと協力して「ゆいマスクプロジェクト」を立ち上げた。「普通なら1日何度も交換する使い捨てマスクを、3日間使い回している」という医療現場の声がきっかけだった。

 このプロジェクトの特徴は、現物を無償提供するのではなく、まとめて大量に仕入れたマスクや防護ガウンなどの医療資材を、仕入れ値や、急激に高騰した場合は相場観に応じた額で医療機関に買い取ってもらうことだ。高騰分を補填したり、通常と異なる仕入れルートによるリスクを軽減したりすることが、医療機関への支援になる。同プロジェクトの発起人で理学療法士の玉城潤さんは言う。

「高機能マスクで言えば、単価100円ちょっとだったものが800円台になったり、千円近くになったりします。通常、マスクやガウンなどの医療用資材は専門商社が工場から仕入れ、全国各地の仲卸を通じて医療機関が買い付けるルートでした。ところがこの枠組みが崩れてルートが複雑化し、場合によっては半日で相場が変わってしまうので、病院が個別に対応できなくなっているのです」

 同プロジェクトでは、日本の商社が通常仕入れないルートに着目し、現場のドクターと連携しながら品質検査をして確保した資材を順次医療現場に届けている。1千万円を調達し、マスク2万5千枚とガウン3万枚の支援を行うことを目標にクラウドファンディングを呼びかけたところ、15日までに6割近くが集まった。5月下旬に締め切り、集まった資金は医療資材に姿を変える。

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