つまり、どの曲でも堀込自身の指示によるアレンジの妙味が行き届いているのだ。1曲ごとにどのように仕上げていくのか、その青写真を丹念に描いた上で、コラボ相手とアレンジや演奏のアイデアを共有しているのではないかと感じる。

 それが最もわかるのが最後に収められた「サンシャインガール」だ。作詞作曲はもちろん堀込だが、自身は演奏には一切参加せずボーカルのみを担当。アコースティック・ギターさえ弾いていない。代わりに、ギターやベースはもちろん、ドラムからプログラミングまでこなせるSKIRTの澤部自身がほとんどの演奏を担当(ウーリッツァーとエレクトリック・ピアノのみ谷口雄)している。結果、まるでビートルズ解散後に発表されたポール・マッカートニーがほぼ1人で録音したファースト・アルバム『マッカートニー』(70年)にも似た、ポップなのに密室感のある仕上がりになっている。

 裏打ちのリズムによって、この曲には確かに緩いグルーヴが伴っている。けれど、それは思わず軽く肩を揺らしてしまうように、または散歩しながらその足取りがそのままリズムになってしまったかのように、自然体なのだ。軽やかに自分に引き寄せて歌唱する堀込自身のボーカルは、低音がどっしりと構えているような本格的なファンクやR&Bではない。日々の暮らしの中で、ナチュラルに作られたタイム感のようなものが、おそらく堀込の曲と歌を生かすグルーヴなのだろう。

 堀込泰行のボーカリストとしての存在感は圧倒的だ。「良いうた」であることを間違いなく伝えてくれるシンガーだ。だが、キリンジ時代の代表曲「エイリアンズ」を、女優のんや鈴木雅之ら多くのアーティストがカバーし、それぞれにピッタリと合った仕上がりになっているように、彼の作る曲には、それぞれの日常生活から気づかぬうちに抽出されたような穏やかなテンポが潜んでいる。どこにでもある暮らしの中のうたなのだ。大衆音楽とは本来、そうしたものだということを、堀込泰行の作品は教えてくれるのである。(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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