一方、赤いラインが出るチェック窓のとなりに、第一抗体を捕まえる第三の抗体が固定化されている。これは尿サンプルと第一抗体がキットの中をちゃんと流れて検査窓のところまで達しているか、確認するための対照用。第一抗体はここでも赤いサインを出す。検査がちゃんと行われているとう証拠だ(これは特に、陰性のとき=つまり避妊のときにに大事)。

 LHの構造は研究しつくされており、LHに対するモノクローナル抗体も、もっとも性能のよいものが選抜されているので、きわめて鋭敏で信頼できる排卵日チェッカーが市販されているわけだ。こんな科学の粋を尽くした文明の利器がたった数百円で買えるのである(私は買ったことないが)。科学の進歩とはこういうことを指すべきだろう。

 さて、新型コロナウイルスに関して、抗原テストの実施が急がれている。これは基本的に排卵チェッカーと同じ原理で、コロナウイルスのタンパク質を二つの抗体でサンドイッチして検出する。排卵チェッカーと同様、迅速(数分以内)に結果がでる。

 しかし信頼度の高い、安定した結果を出すためには、特異性の高いモノクローナル抗体の開発が必須となる。現在、たくさん出ている抗原テストのキットの中にはロットの安定しないポリクローナル抗体(ウサギなど実験動物に抗原を注射して、その血清を得たもの)があり、その点、注意を要する。

○福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

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福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

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