「韓国文学のオクリモノ」(晶文社)、「新しい韓国の文学」(クオン)、「となりの国のものがたり」(亜紀書房)といったシリーズも刊行されている。シリーズを攻略する読み方もおすすめだ(撮影/写真部・加藤夏子)
「韓国文学のオクリモノ」(晶文社)、「新しい韓国の文学」(クオン)、「となりの国のものがたり」(亜紀書房)といったシリーズも刊行されている。シリーズを攻略する読み方もおすすめだ(撮影/写真部・加藤夏子)

「stay home」が推奨されているいまこの機会に、人気の韓国文学に触れてみるのはいかが。AERA 2020年5月18日号掲載の記事で、ポップなSFから重厚な歴史ものまで、韓国のいまと歴史が見える12冊を紹介する。

【ストーリー大国のいま読みたい12冊はこちら】

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 韓国文学が人気だ。日本での翻訳出版が相次ぎ、書店の一角を占めるほどの存在になってきている。

 韓国語書籍の翻訳出版を手掛ける出版社クオン代表の金承福さん(51)は、K-POPや韓流ドラマを通じて韓国文化が身近になり、「好きになったものがたまたま韓国のものだった」という存在にまでなってきていると指摘する。

「日本と韓国は、経済格差やジェンダーギャップなど共通する社会問題が多い。そうした問題をしっかり見つめて描いた作品が韓国文学には多いので、その点も日本の読者に響くのだと思います」(金さん)

 そこで韓国文学として異例の売れ行きを見せた『82年生まれ、キム・ジヨン』をはじめ、多くの韓国文学の翻訳を手掛ける翻訳家の斎藤真理子さんに、おすすめの本をセレクトしてもらった。

 2014年4月の旅客船「セウォル号」沈没事故。死者は乗員乗客299人に上り、その大多数が修学旅行中の高校生だった。多くの大人が生徒たちを救い出せなかったという罪悪感に打ちのめされ、作家の中には創作意欲を無くしてしまった人もいたという。

 この事故から「セウォル号以後文学」と呼ばれるジャンルが誕生。キム・エランの『外は夏』はその代表作だ。

「事故を具体的に描いてはいませんが、総タイトルの『外は夏』は象徴的に『夏になる前に、時間が止まってしまった人々がいる』ことを思わせます。4月の事故後、韓国の人たちが何を悲しみ、何に心を寄せてきたのかが、静かな筆致から伝わってきます」

 韓国社会の厳しい現実に向き合う作家、キム・ヘジンの『中央駅』は、ホームレス男女の人生の極北を描いた小説。

「読むのに体力を要する小説ですが、社会の足元を見つめざるを得ない、めったにない読書体験となるでしょう」

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