同じく江戸時代、尾形光琳が描いた直筆の「小袖 白綾地秋草模様(しろあやじあきくさもよう)(冬木小袖)」(重要文化財)も圧巻。

「これは、光琳が江戸深川の豪商冬木家に逗留した際に、その妻女のために筆をとったものと伝えられています。光琳が直接描いた小袖のうち、完全な形で残っている真筆は、この一領のみです」

 歴史的な価値の高い着物から大胆に意匠を凝らした戦後の着物、そして岡本太郎が手がけた現代の着物まで。着物は800年以上もの間、形を変えることなく、時代の好みを採り入れ、日本人と共に生きてきた。小山さんは力を込めて言う。

「社会や人びとを映し出す、世界に類を見ないファッション、それが着物なのです。自由に着物を謳歌した私たちの歴史が現代にどう繋がっているのか、ぜひ見てほしい」

 4月14日のはずだった特別展の開幕は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されている。会期は未定。貴重な品々をこの目で見るためにも、早期の終息を願うのみだ。(ライター・矢内裕子)

AERA 2020年5月18日号