大阪大学特任教授 坂口志文さん(69)/京都大学医学部卒。京都大学再生医科学研究所所長、大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学分野教授などを経て現職(写真:本人提供)
大阪大学特任教授 坂口志文さん(69)/京都大学医学部卒。京都大学再生医科学研究所所長、大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学分野教授などを経て現職(写真:本人提供)

 免疫力アップさせる方法として、腸内環境を整えることが注目されている。どうすれば、免疫力を活性化できるベストな腸内環境に整えられるのか。AERA 2020年5月18日号は、専門家に意見を求めた。

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 免疫を高めるために、私たちにできることはないのか。そのカギを握るのが腸だ。

 全身の免疫をコントロールする人体の機能として近年、「腸管免疫」が注目されている。免疫研究の世界的権威、大阪大学特任教授の坂口志文さんは「新型コロナへの対抗措置と腸管免疫を直接結び付けるのは難しい」と断りながらも、腸管免疫の重要性をこう強調する。

「腸の粘膜は細菌にさらされる一方、体内に摂取された食物を栄養として腸から体内に取り込まないといけない、なかなか大変な場所なのです。腸内細菌は腸に集結する免疫細胞と相互に作用しながら、全身の免疫力をコントロールしています。免疫活性化メカニズムの最前線が腸管なのです」

 腸管の表面積はテニスコート1面分にも達し、体表面積の100倍以上と推定されている。腸管粘膜は細菌やウイルス、寄生虫や化学物質など様々な異物に絶えずさらされている。これらの異物から身を守るために発達した仕組みが腸管免疫だ。

「約1千種類、100兆個以上で、重量は1.5キロから2キロといわれる腸内細菌が私たちの体内で共生しています。腸管免疫は腸内細菌を絶えず認識して反応し、体調に異変が生じないよう常時アクティブに調整能力を発揮しています」

 腸に集積した免疫細胞は、腸内で人体に有害な細菌やウイルスを見つけて攻撃する能力を鍛えられるだけでなく、血液に乗って全身をめぐり、体の各所で見つけた病原体を攻撃する役割を担う。インフルエンザや肺炎などに対する免疫力の高さを維持できるかどうかは、腸での免疫細胞の訓練次第というわけだ。

 一方、腸の免疫細胞が強くなりすぎると、ときに「暴走」することもある。免疫細胞が本来攻撃する必要のないものまで「敵」と認識すると、花粉症などのアレルギー症状や、免疫細胞が自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫疾患」と呼ばれる病気になる。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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