新型コロナ対策でマスクをして会見し、政府の設計変更申請を批判した玉城デニー沖縄県知事/4月21日、県庁市 (c)朝日新聞社
新型コロナ対策でマスクをして会見し、政府の設計変更申請を批判した玉城デニー沖縄県知事/4月21日、県庁市 (c)朝日新聞社
埋め立て工事が進む辺野古沖。政府は軟弱地盤の改良工事を盛り込んだ設計変更を申請した/3月26日、沖縄県名護市 (c)朝日新聞社
埋め立て工事が進む辺野古沖。政府は軟弱地盤の改良工事を盛り込んだ設計変更を申請した/3月26日、沖縄県名護市 (c)朝日新聞社

 主力の観光がダメージを受けて苦しむ沖縄県民の心情を、政府が踏みにじった。辺野古の工事は絶対に続ける。そんな政府の姿勢に沖縄が怒っている。AERA 2020年5月18日号で掲載された記事を紹介。

【写真】埋め立て工事が進む辺野古沖

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「連休中に沖縄へ来る予定の全ての人に心からお願いする。愛する沖縄とあなた自身を守るため、どうか今は来沖を控えていただき、終息後に笑顔で沖縄を訪れてほしい」

 4月27日午後、苦悩の表情で記者会見し、新型コロナウイルス対策として来県の見合わせを呼びかけた沖縄県の玉城デニー知事は、21日には全く違う表情を見せていた。

「県が求める対話に応じることなく、県民に十分な説明もないまま、埋め立て工事の手続きを一方的に進めることは到底納得できない」

 怒りをあらわにしたこの会見で訴えたのは、名護市辺野古の新基地建設で、防衛省沖縄防衛局が軟弱地盤の改良工事などを追加する設計概要の変更承認申請を県へ提出したことの理不尽さだ。16日に国が緊急事態宣言を全国に拡大し、20日には沖縄県独自の緊急事態宣言にも踏み切ったばかり。今、この状況で、なぜ──。

 押し寄せる新型コロナの脅威と、県民の意思を無視した政府の工事ゴリ押し。沖縄は二つの荒波に同時に襲われている。

 観光立県の沖縄が来県自粛を要請するのは苦渋の選択だ。沖縄大学の島田尚徳講師(公共政策論)は、沖縄の経済事情をこう解説する。

「1人当たりの県民所得が全国平均の7割弱の沖縄県では、産業振興は非常に大きなテーマです。とりわけリーディング産業である観光リゾート産業が打撃を受ければ、県内景気への悪影響が懸念されます」

 沖縄の2018年度の観光収入は7340億5600万円。6年連続で過去最高を更新し、好調な沖縄経済を牽引してきた。宿泊、飲食サービスなど関連産業のすそ野が広く、ホテル建設など新規投資も活発に行われてきた。観光客の流入が途絶えることの打撃は計り知れない。

 沖縄経済は、中小事業者が支えてきた。従業者数5人未満の事業所は全体の61.2%(全国平均は56.8%)、宿泊・飲食サービス業では実に68.4%(同57.9%)を占める。島田さんは言う。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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