●不安を抑えて心のブレーキを適正に働かせる


三浦麻子さん(50)大阪大学教授

 新型コロナを避ける心理がどのような発言や行動につながっているか、注意深く見ています。1月下旬ごろは中国など海外の人たちに対する否定的な言動が現れていました。それが海外にいる日本人にも向けられ、帰国者に対する排斥的な態度へと発展していきました。

 人間には「行動免疫システム」が備わっています。体内にウイルスが入ると検知して退治しようとしますが、同様に心も感染者を見分け避けようと働くのです。また、人は不安が極めて大きいとき、原因を特定したくなります。「あいつが悪いからこんなことになったんだ」と「原因らしきもの」を叩くことで安心感を得て、心のバランスを取ろうとするのです。排他的な言動や差別がパンデミックで繰り返されるのは、こうした心理メカニズムが働くからです。

 トイレットペーパーの買い占めも起きましたが、注目されるのは「トイレットペーパーが品切れになる」というデマ自体ではなく、「品切れになるという、誤ったデマが流れている」というデマ是正を意図した情報が、逆に人々を購買に走らせた点です。多くの人が誤っていることをわかりつつも、「ありえる」と感じたからでしょう。客観的な真偽よりも、主観的に信じやすい、あるいは信じたい情報の方が真実っぽく見えてしまう傾向が強まっているのです。

 現在、私たちは「心のブレーキのかかりにくい状態」にあるという自覚が必要です。あまり反射的に行動しないことです。また、不安を抑える方法を自分なりに考え、実践する心がけも必要です。ネガティブな情報に常にさらされていると不安は膨らむばかりなので、情報に接しすぎないようにするのも一つでしょう。不安や恐怖、抑うつにとらわれているのは自分だけではありません。オンラインで人とつながったり、感謝の日記をつけたり、趣味でリフレッシュしたり、個々人が心のブレーキを適正にかけられる状態にすることが、社会にとっても今とても大事です。

(構成/編集部・石田かおる)

AERA 2020年5月4日-11日号