人類と感染症との闘いの歴史からいま、何を学ぶのか。新型コロナの不安とはどう付き合うか。AERA 2020年5月4日-11日号では、「新型コロナ50人の提言」を特集。2人の専門家が語る。
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●歴史が伝える感染症後に開く新しい時代
佐倉統さん(59)東京大学教授
カミュの『ペスト』をはじめパンデミックの歴史を伝える本が売れているといいます。人類の歴史は、感染症との闘いの歴史といっても過言ではなく、そこでは似たような光景が繰り返されてきました。
普段は抑制されている利己的な振る舞いや潜在的な差別、排他の意識が表に出てきます。対策面では、「隔離」や「封鎖」は14世紀のヨーロッパの黒死病(ペスト)のときにすでに行われていました。感染症が大流行すると自警団が結成されるなど、感染者や弱者を社会的に「管理」する行為も盛んになります。
しかし、そこに現代の情報技術が結びつくと、大いに増幅され、格段の威力を持つことに私は懸念を抱いています。
新型コロナ対策が、現段階で一番うまくいっているのは韓国です。感染者の行動履歴を徹底的に追跡し、管理するシステムが機能しているからです。中国も、武漢での最初の流行は破壊的でしたが、上からの管理を強化することで事態を好転させました。対照的なのが危機に瀕している西洋社会です。自由と個人主義を尊重してきました。
今後、各国が感染症対策の強化を図ろうとするとき、韓国モデルが採用される可能性が高いのではと思います。日本でも新型コロナの状況次第では「国がもっと管理すべき」という論調が高まるかもしれません。
しかし、国による行動管理の強化はプライバシーを侵害しかねず、歯止めが利かなくなると全体主義を招きかねない危険性もはらんでいます。一時の感情に押し流されて決めるのではなく、冷静にリスクと便益を比較考量したオープンな議論を重ねていくことが重要です。
感染症の歴史を見ると、流行は必ず終息しています。「出口が必ずあること」に希望が見いだせます。また、黒死病は教会の権威を失墜させ、ルネサンスや宗教改革の新たな時代への転換を促しました。今あぶり出されているさまざまな問題と真摯に向き合い、解決した先には次の新しい時代が切り開かれる可能性があることを歴史は伝えています。それを生かしていくのは私たち自身です。