ブレイディみかこさん(54)/ライター、コラムニスト。1965年、福岡県生まれ。96年からイギリス在住。著書に『子どもたちの階級闘争』など多数。6月に『ワイルドサイドをほっつき歩け』を刊行予定(撮影/篠塚ようこ)
ブレイディみかこさん(54)/ライター、コラムニスト。1965年、福岡県生まれ。96年からイギリス在住。著書に『子どもたちの階級闘争』など多数。6月に『ワイルドサイドをほっつき歩け』を刊行予定(撮影/篠塚ようこ)

 イギリスでは「コロナ後」の社会に注目が集まっている。感染拡大を教訓に変革の動きが見えつつある。その主役となるのは、子どもの頃に新しい市民教育を受けた若者たちだ。AERA 2020年5月4日-11日号では、イギリス在住のライター・ブレイディみかこさんが教育の重要性を訴える。

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いまは学校集会もできないので校長先生のメッセージもオンラインです。そこで校長先生がこんな話をしていたんです。

「エマージェンシー(緊急事態)は、エマージという言葉がもとになっていて、そのエマージという言葉は『何かが現れる』という意味だ。だから、エマージェンシーというのは、今までは見えなかった何かが現れてくるときなんだよ。こういう事態になったから、キーワーカーの人々の仕事の大切さをみんなが認められるようになった。緊急事態になると悪いところも見えてくるけど、いいところもすごく見えるようになる。だからイースター休暇の間は、そのことについて文章を書くのが宿題です」って。

 感染の危機があっても外に出て働かないといけない人たちこそ本当に社会に必要だったんだっていうことがわかった。そういう仕事って押しなべて低賃金で、普段は目立たない報われない仕事です。そういう人々にいまスポットライトが当たっていることの意味は大きいと思います。社会は、彼らや彼らの職場にもっと投資すべきなんだという事実が、それこそエマージしてきたわけですよね。

――イギリスはどの新聞も「いま」ではなく「コロナ後」をどう生きるかという論調に変わってきているという。

 パンデミックはずっと続くわけではなく、いつかは去るものです。ただグローバル化で人がすごく動くので、コロナが終息しても、また何かのウイルスが拡大するかもしれない。その時のためにどういう社会を作っていったらいいのか、そういうことをみんなが考え始めています。経済や財政に対する考え方も、倹約して政府の借金さえ返していければいいっていう時代は完全に終わりました。

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