最近、会社の人たちとリモート会議をしていて思うのは、社員はもちろん、アルバイトの人たちにも会社の先行きについて安心させてあげたい、ということです。

 その安心感をつくるためには、僕は手を洗って外出を控えたうえで、会社の経営のことを考えなくてはいけないんです。コロナをどう退治するのかという論争に加わっている1時間というものがもしあるとしたら、自分の会社のことを考えたほうがいい。そうやって「自分の群れを守る」という意識を持つことは、これからますます大切になってくると思います。

 ただ、正直に言うと、僕はいまちょっと楽しい部分があって。仕事が進まない分、目先のことであれこれ決める作業がすごく減ったので、前からやりたかったことがいまやれているんです。本の読み方にも余裕があるんですよね。いますぐに必要ではないからと取っておいた本が、いい感じで読めている。

 カミュの『ペスト』を読むのもいいけれど、僕としては“いまとかかわらない”もののほうがいいと思うんです。いまだけのことに振り回されないために、いまとかかわっていなくても成立していて、いつの時代でも通用するものを取り入れる。そのいい機会だと思うんですよね。

 個人的なことを言うと、以前ゴッホの展覧会を見たとき「やっぱりこんなにいいんだ」と感動して、ゴッホの本をいくつか買っておいたんですけど、全然読めずに置いてあった。それを最近読み始めたのですが、もうめちゃくちゃ面白いんですよね。もしこういう機会がなかったら、買っただけで一生読まなかったかもしれないのに、いまゴッホファンになっている(笑)。いつか必ず「あのときにあれを読んでおいて良かった」と振り返るときがくると思うんです。

 順調にワクチンの開発が進み、この新型コロナウイルスが「旧型」と呼ばれるようになって人々の日常に溶け込んだとき、果たして自分は何をしているのか。その未来からの視点で、いまの自分を見つめることが大切だと思います。

 自分の人生をちゃんと自分なりにやる、という原点のことをみんながやっていたら、それでいいんじゃないかな。

(構成/編集部・藤井直樹、三島恵美子)

AERA 2020年5月4日-11日号より抜粋