史上初となる1年延期が決まった東京五輪・パラリンピック。突然遠のいた目標までの日々を、せっかくなら最高の準備期間にしたい。ピンチをチャンスとして捉えることでいま、何ができるのか。AERA 2020年5月4日-11日号で、日本パラリンピック委員会委員長・河合純一さんと五輪メダリストでメンタルトレーニング上級指導士の田中ウルヴェ京さんが語る。
【写真】超貴重! 東京オリンピックを迎える1964年正月元旦の日比谷公園停留所
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●ピンチはチャンス、より良い自分と大会を作る時間に
河合純一さん(45)日本パラリンピック委員会委員長
新型コロナの感染が世界的に広がる中で、東京五輪・パラリンピックが中止でなく、延期という形で選手に夢と希望を残せる形になりよかったです。今の状況を早く終息させることが第一ですが、選手や関係者には目指していた以上の成果につながるような1年間を過ごしてほしいと願っています。
思うような練習ができず不安を抱える選手も多いと思いますが、せっかくの時間を自分の見方、考え方を広げる学びに使ってほしい。心理学を学べば自分の感情をコントロールする術が身につくかもしれないし、栄養を意識しながら料理するのもいい。「ピンチはチャンス」です。発想を転換し、成長するきっかけをもらったと思うほうがいい。すべては自分の体と心で結果を出すわけですから、無駄なものなんて何一つないんです。
1年の延期は日本パラリンピック委員会のチャンスでもあります。パラリンピックの名はほぼ認知されたと思いますが、すぐに名前が出る選手はほとんどいない。お気に入りの種目や注目の選手に出合ってもらえるよう、もっと発信していきたい。
特に憂えているのは経済状況の悪化です。2008年のリーマン・ショックの時に企業スポーツがどんどん撤退したことを思うと、選手の雇用や競技団体などのスポンサー契約が保持されるのか、と。パラスポーツにはガイドや伴走者のように選手とともに戦うパートナーも多い。企業にご協力をお願いするしかないですが、選手自身も自分の価値を社内や社会へ示せているか見つめ直し、再構築するチャンスなのかもしれないですね。
東京パラリンピックの後の日本には、バリアフリー設備などハード面ではなく、人のハート(心)にレガシーを残したい。そうすれば5年後、10年後、少しでも個性をお互いに生かせる多様性のある社会に近づくと思います。ミックスジュースではなく、それぞれの素材を生かしたフルーツポンチのような社会を作っていくきっかけになったらいいなと思っています。