AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
呉座勇一さんの著書『日本中世への招待』は中世日本に生きる人々の、知られざる日常生活についてつづった一冊。まるでタイムスリップしたかのように、当時の人々のリアルな暮らしぶりを知ることができる。呉座さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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鎌倉や戦国、室町時代といった「中世」と聞くと、源義経や織田信長などの武将の名前を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、当時の人の生活や文化、価値観までは、あまりよく知られていない。
「日本史の解説書は、どうしても戦いの歴史や政策が中心になってしまう。武将たちがどんな時代を生きてきたのかを知ることで、歴史をより深く理解することができます」
そう語るのは、『応仁の乱』などの著書で知られる呉座勇一さん(39)だ。
中世の人びとの生活からは、現代日本人の原型が見て取れる。例えば、茶道や華道の文化や、床の間や掛け軸など、いわゆる日本の伝統的な生活文化が始まったのは、室町時代から。毎晩のように酒宴が開かれ「二日酔い」という言葉が生まれたのもこの頃というのも、親近感を覚える。
一方、現代からすると少し過激に感じる文化も存在した。例えば、こどもの日には、子ども同士で石を投げ合う「石合戦」が行われていた。時に大人が刀で加勢し、死傷者が出たことも。また、夫が妻の不倫相手を殺害しても、一定の条件下で罪に問われない「妻敵打」といった習慣もあった。
「いずれも江戸時代に入ると、ルールが設けられ秩序が形成されていきますが、中世には本音と建前のような『二重基準』がありました。殺人は法律上はダメ、でも間男を許せない気持ちは分かる……といった人びとの本音が、習慣や価値観として色濃く残っています」