永井陽右さん(28)/NPO法人アクセプト・インターナショナル代表理事。1991年生まれ。ソマリアやケニア、インドネシアなど、テロや紛争の解決と平和構築を専門とする(撮影/篠田英美)
永井陽右さん(28)/NPO法人アクセプト・インターナショナル代表理事。1991年生まれ。ソマリアやケニア、インドネシアなど、テロや紛争の解決と平和構築を専門とする(撮影/篠田英美)

 厳しい衛生環境の中、人々が寄り添って生きる紛争国やスラム。支援がなければ感染拡大のみならず、さまざまなリスクがともなうという。AERA 2020年5月4日-11日号で、NPO法人アクセプト・インターナショナル代表理事・永井陽右さんが語る。

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 スラムでの新型コロナウイルスの感染が心配されていますが、南アフリカ、ケニア、ナイジェリアなどにある都市部のスラムは人口も多く、ここで感染者が出ることに戦々恐々としています。手洗い用の水も足りず、エイズなど持病を持つ人も多い。ワクチンなどが開発されても、値段が高ければ十分に行きわたりません。場所によっては消毒液が配布されていますが、イスラム過激主義の中には、消毒液はアルコールだからと拒否する人もいるようです。その場合は、アルコールを使っていない消毒液を配って理解してもらう必要がある。また、国連などが把握できていない辺境地で感染が広まり、さらにそのウイルスが変異する可能性もある。認知できない形で拡大し、おさまったと思ったウイルスが再び世界中に広がることも考えられます。

 様々な国で刑務所内での感染も指摘されています。暴動が起きて、囚人を釈放してしまったところもありました。

 私は定期的にソマリアなどの紛争地に行き、いわゆるテロリストやギャングの更生支援などをしていますが、ソマリアでは4月23日までに286人の感染者が判明しています。これは衝撃的で、破綻国家ゆえに爆発的に広がる可能性が大いにあります。また、政情の不安定な場所や紛争地、紛争影響地では、国際社会の支援があって初めて、国が何とか回る状況です。けれども今、支援国が自国の新型コロナウイルス対策で手いっぱいです。支援がなければ、政情の不安定な国では政府への不満が高まり、テロや紛争が激化していく。そうなると治安が悪くなり、仕事がなくなり、収入が減り、誰かを殺してでも金を奪おうとする人が出てくる悪循環に陥っていきます。テロ対策もできず、相対的に武装勢力がますます力を持ってしまう。

 この先、公衆衛生の支援が中心となっていくと思うのですが、その他の問題が待ってくれるわけではありません。どう連関を意識して動いていくかが、大きな課題だと思っています。

(構成/編集部・大川恵実)

AERA 2020年5月4日-11日号