「私にとって時刻表は、リフレッシュやデトックスなど、ストレスの多い日常の社会生活において心身のバランスを整えてくれる大切な相棒です」

 代表的な時刻表の一つが「JR時刻表」(交通新聞社)だ。編集人の石田見(けん)さんによれば、発行部数は約9万部、購読者は10代から60代まで幅広く、男性が8割近くを占める。時刻表は「読み物」として旅行に出かけた気分に浸れることも魅力の一つだと言う。

「オリジナルの旅行プランを無限に作ることができ、実際に旅に出なくても読んでいるだけで旅気分に浸れます。プランを考える時、新幹線を使う、在来線のみで行く、特急列車には乗らずに普通列車のみで行く、高速バスでは行けないか……。このように、その場所に行くまでのルートをさまざま組み立てることができます」(石田さん)

■線ではなく面がわかる

それにしても、今やスマートフォンの検索アプリがあれば目的地までのルート、乗車時刻、乗換駅、所要時間などを瞬時に表示してくれる時代。なぜ、時刻表がここまで愛されるのか。

 小学校以来の時刻表鉄で、時刻表は「青春のバイブル」という鉄道ライターの杉山淳一さん(53)は、アプリとの違いは「線」と「線」からなる「面」を捉えられることにあると語る。

「乗り換え検索アプリは出発駅と乗換駅の情報、つまり点と点の情報しか出てきません。しかし、時刻表では列車が動く線が見えてきます」

 たとえば、アプリでは新宿発の各駅停車に乗っても発時刻と着時刻しかわからない。しかし、紙の時刻表なら「途中の駅に何時に着いて、特急の通過待ちで10分ほど停車する」という情報もわかる。すると「その停車時間に駅弁を買おうか、駅そばを食べようかな」というプランができるという。

「時刻表の巻頭地図の路線網もあわせて見れば、『途中の駅から分岐する列車に寄り道しても楽しそう』と、旅のエリア全体へ思いを膨らませることもできます」(杉山さん)

 時刻表をひもとく楽しみは限りない。数字の背後に潜む、人間の営みまで見えてくる。

 千葉県に住む鉄道好きの男性(35)は、時刻表は「地域社会を妄想するツール」と言う。

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