3月上旬、東京・新宿のカフェで新刊本ゲラの確認作業。その間も依頼のDMは届く。「亡くなったおじいちゃんの生家を一緒に探してほしい」「『となりのトトロ』を歌うので聴いてほしい」「人に話せない自慢を聞いてほしい」(撮影/写真部・東川哲也)
3月上旬、東京・新宿のカフェで新刊本ゲラの確認作業。その間も依頼のDMは届く。「亡くなったおじいちゃんの生家を一緒に探してほしい」「『となりのトトロ』を歌うので聴いてほしい」「人に話せない自慢を聞いてほしい」(撮影/写真部・東川哲也)
彼を「面白い船が集まる港」と評した人がいた。筆者は「教会の懺悔室」だと彼を見る。依頼者は「何か」から赦されていく(撮影/写真部・東川哲也)
彼を「面白い船が集まる港」と評した人がいた。筆者は「教会の懺悔室」だと彼を見る。依頼者は「何か」から赦されていく(撮影/写真部・東川哲也)

 何もせず、ただいるだけなのに次々と依頼がくる。彼にしてほしいことも、特に、ない。モヤモヤすることを吐き出したいだけ。心が揺れるとき隣にいてほしいだけ。一人ひとりが偽りない自分の気持ちを解放できる場として、彼の「存在」はある。何ができようができまいが、人は生きているだけで価値があることを実証している。AERA 2020年5月4日-11日号に掲載された「現代の肖像」から一部紹介する。

【写真】スマホには様々な依頼が舞い込んでくる

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「『レンタルなんもしない人』というサービスを始めます。1人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ1人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください。国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます」

 2018年6月3日、こんな1通のツイートに、たちまち全国から約4万を超える「いいね」が付いた。この日を境に、発信者のもとには連日、じつに多様な依頼が舞い込むようになった。

 彼の名は「レンタルなんもしない人」(本名・森本祥司 もりもと・しょうじ、36)。依頼はこんな具合だ。

「引っ越しを見送ってほしい。友達だとしんみりしすぎてしまうので」
離婚届の提出に同行してほしい」
「一緒にクリームソーダを飲んでほしい」

 津々浦々から届く、こうした依頼を、ツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)で受け取るや、彼はそれに応じ、この時に起こったことや抱いた感想について、許可を得た上で後日ツイート。

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