「国が補償して休めるようにするのが一番いいと思います。ただ、どうしても治療が必要な患者さんはいるので、地域でその日ごとに当番を決めれば、うまく回せるのではないでしょうか」

 歯科をめぐっては、別の問題も起こりつつある。接触を避けて通院を控えれば、口腔内ケアがおろそかになる恐れがある。特に、施設に入っていて自分でケアできない高齢者は、口腔内ケアが途絶えると注意が必要だという。昭和大学歯学部の佐藤裕二教授が指摘する。

「虫歯や歯周病が進んで、寝ているときなどに肺に細菌と唾液が流れ込むと、誤嚥性(ごえんせい)肺炎が起こりやすくなります。どれくらい起きるかは分かりませんが、確実に増えると思います」

 誤嚥性肺炎は後期高齢者の肺炎のほとんどを占めると考えられ、死につながるリスクがある。それを防ぐため、施設スタッフが歯科衛生士の代わりにケアをしようとすると防護具の不徹底が心配され、さらに「0メートル」の接触から感染リスクが生じる。板挟みの状態だ。

 政府やメディアは、外出の自粛とテレワークの推奨を叫ぶ。しかし、現場で働かざるを得ない人たちはいる。新潟大学の齋藤玲子教授(公衆衛生学)は、そこに格差問題が関わる可能性があることにも注目する。

「WHOも新型コロナが貧しい人をハードヒットしているという点を繰り返し指摘しています」

 九州に暮らす女性(42)には、東京で一人暮らしする大学生の長男と、3歳の次男がいる。女性はこれまで三つの仕事を掛け持ちしてきた。フリーランスでの料理教室の講師と保育園でのパートの調理員。もう一つは、デリヘルだ。料理教室は2月いっぱいで仕事がなくなった。調理員の仕事も減り、今は週に2、3回ほど。デリヘルの仕事では、これまでは月に1回、3泊程度で次男を連れて新幹線で関西へ行き、現地の保育園に子どもを預けている間に客の相手をしてきた。収入の柱だったが、次男を新幹線に乗せることが不安で、4月以降はやめている。

「いい機会なので、引退しようと思っていたのですが……」

 迷ってはいたが、現実は厳しい。現在の月収は調理員の仕事の約5万円だけだ。新型コロナの影響でアルバイト収入が途絶えたという長男が大学を卒業するまでに、まだ1年ある。

「あと1年はデリヘルで頑張らないといけないでしょうね」

 新型コロナの感染拡大が収束に向かうかどうか分からないが、女性は時期を見て客を取り始めるつもりだという。(編集部・小田健司)

AERA 2020年5月4日号-11日号より抜粋