そうした支援方法の中で、特に注目したいのがオリジナルのオムニバスCDの制作販売だ。そのライヴハウスとゆかりのあるアーティストやレーベル関係者が企画し、アーティストらに声をかけて実現させるものだ。もちろん売り上げはそのライヴハウスに寄付。ベネフィット作品ながら、CDはちゃんとプレスされ、ブックレットやジャケットも新たに作られる、れっきとしたパッケージ商品だ。

 現在予約販売が始まっているもので、特に注目したいのは2作品である。一つは、東京・神保町にあるライヴハウス「試聴室」に向けて制作されたCD「STAY OPEN ~潰れないで 不滅の試聴室に捧ぐ名曲集~」。これは関美彦氏(SUNDAY GIRLS)と平澤直孝氏(なりすレコード)という、ともに「試聴室」に関係の深い2人による共同プロジェクトとして急遽企画された。ゆかりあるアーティストとアイドルの全30組が集まった。収録曲のほとんどが、新曲、未発表曲、未発表バージョン、初CD化など貴重な作品ばかり。CDの売り上げは、制作経費を除いた全てを神保町の「試聴室」と、その姉妹店である横浜・日ノ出町の「試聴室その3」の維持費補てんのために寄付される。

 参加しているのは、姫乃たま、加納エミリ、天野なつ、WAY WAVEといったアイドルから、柴田聡子と滝沢朋恵によるユニット=バナナジュース、井手健介、ポニーのヒサミツ、谷口雄と吉村類によるミッドナイト・ランブル・レコードといったインディー・アーティストまで、多種多様である。

 オフィス街の真ん中にこつぜんと存在する「試聴室」が、日頃からユニークなブッキングを行っている希少なライヴハウスであることを、改めて実感させてくれる。配信やサブスクリプション・サービスでの販売は一切しないことからも、CDという手にする作品への強い愛着とこだわりを感じさせる。

 ジャンルに関係なく、ポップで親しみやすいアーティストをこれからも「試聴室」で観せてほしいという、支援する作り手の願いも伝わってくるだろう。発売日は5月25日を予定しているが、企画サイドは早めの予約購入を呼びかけている。これは4月中に集まった売上金をいったん、「試聴室」に寄付金として納めるため。それほど経営が逼迫(ひっぱく)しているということなのだろう。現在公式ページ(https://narisurec.thebase.in/items/27866938)で予約中だが、予約可能枚数まであとわずかだという。

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