このほか、災害や戦争時にも、「不安を恐怖に変えて敵を排除する反応」は起こりやすい。関東大震災後の朝鮮人虐殺は、震災によってパニック状態になった人々が朝鮮人という「敵」を作り出して起こった。

 第一次世界大戦後のドイツでも、巨額の賠償金で苦しみ先行きの見えない不安が、「敗戦の原因はユダヤ人と共産主義者」という主張に収斂され、ナチスの政権獲得、さらにはホロコーストへとつながっていったといえる。

「現在の日本で虐殺が起こるとは思いませんが、心理状態としては共通しています。不安が蔓延すると敵を作り出そうとする反応があることをぜひ知っておいてください。そして、特定の誰かを非難する言動に飛びつく前に、その情報が正しいか冷静に判断することが大切です」(同)

 不安は冷静な判断力を奪う。誰かが「これはあいつらのせいだ」とささやく。冷静に考えれば明らかなデマであっても、はっきりとした対象を見つけたがっている不安な心は、その言葉を信じ、一緒に攻撃したくなる。

 誰かを攻撃したくなったときは、まずは自分の心の状態を見つめることが必要だ。そして、不確かな情報に飛びつかないためにも、不安な気持ちをひとりで抱え込まないこと。

「不安を乗り越えるのに大切なのは人とのつながりです。物理的に会うのは難しくても、家族や友人と励まし合ったり、愚痴を言ったり、できる限りつながりを保ちましょう」(同)
 
 差別的な言動や攻撃は、ひとつ正してもすぐに次が現れる。いかに冷静な心を保てるか。いま、ひとりひとりに問われている。

(編集部・川口穣)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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