2011年3月16日、上皇陛下は5日前に発生した東日本大震災を受け、国民に向けビデオメッセージで語りかけた(写真:宮内庁提供)
2011年3月16日、上皇陛下は5日前に発生した東日本大震災を受け、国民に向けビデオメッセージで語りかけた(写真:宮内庁提供)
原武史(はら・たけし)/1962年生まれ。政治学者、放送大学教授。近著に『地形の思想史』(KADOKAWA)(写真:原さん提供)
原武史(はら・たけし)/1962年生まれ。政治学者、放送大学教授。近著に『地形の思想史』(KADOKAWA)(写真:原さん提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、不安は日に日に大きくなっている。天皇陛下の「おことば」はあるのか。天皇制を研究する政治学者、原武史さんが語った。AERA 2020年4月27日号から。

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 メッセージを出すとすれば、一つのタイミングとして5月1日があるのではないでしょうか。令和改元と即位からちょうど1年というタイミングなら、メッセージを出す流れも自然です。皇后も一緒であれば、インパクトは倍増します。

 長いメッセージにはならないと思います。まずはねぎらいの言葉でしょう。東日本大震災後のメッセージでは、自衛隊を筆頭に救助活動にあたっている人々をねぎらいました。今回はまず医療従事者へのねぎらいだと思います。

 そして、感染者に対する差別や偏見を戒める言葉が入ると思います。国民同士がいたわり合い、助け合うことの大切さが強調されるでしょう。

 しかし同時に、令和になってからの天皇と皇后の動きを踏まえると、国内の感染ばかりか世界各地の感染の広がりを危惧する言葉も入ると思います。トランプ大統領夫妻と通訳を介さずに話すなど、国際交流を重視してきた天皇と皇后は、「日本人」「国民」という範疇(はんちゅう)だけで物事をとらえていないように感じます。これも平成との違いで、メッセージにはその違いが表れるのではないかと思っています。

 たとえ国民の間にメッセージを待望する空気が醸成されなくても、ひとたび天皇がメッセージを発すれば、圧倒的にありがたがる空気が生まれるのは間違いありません。それは個々の天皇の違いにかかわらずそうです。この点に関しては、平成のビデオメッセージどころか、終戦時の玉音放送以来、なんら変わっていません。

 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長を赤坂御所に招き、両陛下が説明を受ける様子を伝えたNHKニュースが、「両陛下は今後も関連するさまざまな分野の専門家から説明を受けられる予定です」と言っていました。新型コロナウイルスの感染拡大に対する天皇と皇后の関心は、きわめて高いと思います。天皇制の研究者として、その関心が今後どういう形で表れるかに注目しています。

(構成/コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2020年4月27日号より抜粋