矢部潤子(やべ・じゅんこ)/1957年、東京都生まれ。80年、芳林堂書店に入社以来、パルコブックセンター、リブロ池袋本店などに勤務、版元から絶大な信頼を得る。現在はハイブリッド書店hontoのコンテンツ作成に携わる(撮影/写真部・小黒冴夏)
矢部潤子(やべ・じゅんこ)/1957年、東京都生まれ。80年、芳林堂書店に入社以来、パルコブックセンター、リブロ池袋本店などに勤務、版元から絶大な信頼を得る。現在はハイブリッド書店hontoのコンテンツ作成に携わる(撮影/写真部・小黒冴夏)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

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 矢部潤子さんの著書『本を売る技術』は、取引、流通から売り場作り、掃除、POPに至るまで、本を売るための技術と考察をまとめた一冊だ。「書店の仕事にはすべて道理がある」という矢部さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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「本が売れない」と言われて久しい。だが『本を売る技術』の著者・矢部潤子さん(62)は「本当に、売る努力をし尽くしているのでしょうか」と問う。

 36年間、書店の現場で働いてきた矢部さんは、出版社の人間から全幅の信頼を寄せられてきた。だが自分の好きな本を展開するといった、いわゆる「カリスマ書店員」とは趣が異なる。

「売れる本は平台の左端に積む」「同じ著者の本は、刊行順に左から並べる」「咲く(売れる)場所に本を置く」などなど、本書に書かれているのは、矢部さんが現場で磨き上げてきた「売れる書店を作る」ための具体的なノウハウだ。

 特筆すべきは「なぜ、そうするのか」の裏付けがクールで論理的なこと。そこに書店員の個人的な「思い」が入り込む余地はない。

「書店をいかに運営するかというノウハウは複雑でお店ごとに違うから、マニュアル化されにくかった。現場で先輩に習ったり、人の仕事を見て盗んだりとか、口承でやってきたんです。けれど気がつくと、かつては当たり前だった売るための技術が継承されなくなっていました」

 理由はいくつもある。単純に正社員の店員が減っていること。先生役となるべき40~50代がマネジメントで忙しく、現場に出られないこと。

「いろいろな理由が積み重なって、書店の土台が崩れてきていると感じます。日々、入ってくる新刊をどのように置くか。お客様が負担なく本を見て、買いたい気持ちになる動線や、本の情報を仕入れること。掃除を心がけ、平台を整理していくのも大事です。その場にある武器(本)を使って売り上げを出していくのは、機械的な手順の話だけではおさまりません」

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