肺呼吸が浅く、速くなると細胞呼吸がうまく機能しなくなる。すると、つかれやだるさ、集中力の低下が起きるのだという。現代人は背になってパソコンやスマホで作業をするため、呼吸が浅くなりがちだ。それに不安やストレスが加わると、心身が緊張し、呼吸はさらに浅く、速くなる。モチベーションの低下のほか、自律神経の乱れから肩こりや便秘、手足のしびれ、胃炎などが起きることもあるという。

「この悪循環を断ち切るために、呼吸法によるブレークタイムを設け、副交感神経のスイッチを入れることが必要です」(根来さん)

 根来さんが提唱する呼吸法の基本は、腹式呼吸。吐くときにはおなかを絞るようにへこませながらゆっくり鼻から息を吐き、そのあとでおなかに空気を入れるつもりで大きく鼻から吸う。おなかに手をあて、おなかの動きを確認するとわかりやすい。吸う息より吐く息が大切で、長めにゆっくり吐くことがポイントだという。

 この深い腹式呼吸を意識するだけでも自律神経のバランスは整いやすくなるが、根来さんはさらに効果を得るための呼吸法を教えてくれた。

 ストレスや不安を解消するのにおすすめなのが、「4・4・8呼吸法」。4秒吸って、4秒止めて、8秒で吐く。仕事や勉強の合間、45~90分に1度行えば、リフレッシュにもなる。

 もう少し時間があるときにじっくり行いたいのが、「下腹部呼吸法」だ。副交感神経を高め、セロトニンの分泌をうながすため、ネガティブな気持ちを長引かせない。一定のリズムで最短5分、最長20分じっくり行いたい。

 眠る前には「マインドフルネス呼吸法」がおすすめだという。マインドフルネスとは、集中して雑念を取り払う瞑想。グーグルなど企業の社員研修、うつ病やがん患者のメンタルケアに取り入れられている。あぐらをかいて背筋を伸ばし、目を閉じて、自然に呼吸をする。頭に雑念が浮かんでも、ひたすら流す。5~15分するだけで、すっきりしてよく眠れるという。

「呼吸は吐いて吸うというシンプルな行為ですが、回数やタイミング、やり方などでその効果は大きく異なります。呼吸法を取り入れることで日常の呼吸も変わってくるはずです」(同)

(ライター・井上有紀子)

AERA 2020年4月27日号より抜粋