日本のPCR検査実施数の推移(AERA 2020年4月27日号より)
日本のPCR検査実施数の推移(AERA 2020年4月27日号より)

 新型コロナウイルス陽性かもしれない。けれども、疑わしくても、現状では対応のしようがない――。医療現場ではひずみが深刻化している。AERA2020年4月27日号から。

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 日本では、PCR検査の件数が抑えられてきた。

 だが、PCR検査の未実施が、誰も知らないうちに感染拡大の大きなリスクになっているという現状が医療現場にある。

 都内の病院に勤める女性医師が、医療現場で実際に起きていることを話してくれた。

 4月、発熱があり新型コロナが疑われるとして、高齢男性が透析病院から紹介されてきた。肺のCT(コンピューター断層撮影)を撮ると、「誰が見てもコロナ」(女性医師)という像が確認できた。

 検査をして、陽性が出たら隔離、もともといた透析病院にも連絡する。当然、こうした流れで手続きが進むものと思っていたが、実際はそうではなかった。

「予想通りに陽性が出たら、誰もハッピーにならない、という判断がされました」

 仮に、新型コロナを想定せずに治療をしていた透析病院に「陽性」と伝えたら、その病院の外来診察は止まるかもしれない。スタッフは自宅で健康観察になるだろう。透析患者はよその病院を探して、これまでと同じペースで透析を受けることができるかどうかもわからない。

「だからPCR検査をせずに、『ほぼクロのグレー』扱いとなったのです」(女性医師)

 この病院ではほかにも、37度の熱を出して感染が疑われたのに、PCR検査どころかCTも撮らずに帰した高齢の女性患者もいた。陽性だとしても病院で受け入れられなかったからだ。患者を帰した後、女性医師は1人で防護服を着て、次亜塩素酸ナトリウムで診察室を念入りに消毒した。

「もうそのくらい事態は進んでいるのです。その状況を知らない素人のコメンテーターや偉い先生方が公表された数字だけで論じても、何の意味もありません」(女性医師)

 ほぼクロでも、疑わしくても対応せず──。そうせざるを得ない原因はどこにあり、責任は誰が負うのか。感染の拡大とともに、医師にしか見えない医療崩壊が起こり始めている。(編集部・小田健司)

AERA 2020年4月27日号より抜粋