幾重にも重なる女性蔑視にもくじけないペトルーニャ。十字架を奪いあった男性たちはもちろん、司祭や警察官にも怯まず堂々と自身の主張をする。次第に彼女を応援せずにはいられないほど、彼女を巡る問題は国境を越えて私たちにも響く。ミテフスカ監督は言う。

「彼女はアンチヒーロー。キャラクターづくりで重要だったのは、意外性を持ったヒーローを演じるということ。日常のヒーローは市井の人であって、決してモデルさんのような(美しい)人ではない。世界が多様性を受け入れていく中、映画監督もまた、そういう考えをどんどん推し進めていくべきだと思います」

 自分の映画を通して世界を変えられれば、また、世界を変えるきっかけになれば──。そう信じて、映画を作り続けるミテフスカ監督こそ、ペトルーニャその人だ。

◎「ペトルーニャに祝福を」
社会の理不尽に対抗していく女性の姿を描く。2021年初夏、東京・岩波ホール他全国順次公開予定

■もう1本おすすめDVD「早春 デジタル修復版」

 芸術一家に育ったミテフスカ監督が、影響を受けた映画監督の一人が小津安二郎。「小津映画のパターンのようなものが自分の中に素地としてあります」と話す。お気に入りの一本が「早春」だ。

 杉山正二(池部良)は蒲田から丸の内に通うサラリーマン。妻の昌子(淡島千景)とは子どもを亡くしてからどこかギクシャクしている。そんな杉山が同僚たちと行ったハイキングをきっかけに、仲間の“金魚”(岸惠子)と急接近。金魚の誘いに乗って一夜の関係を持ってしまう……。

 既婚女性が見れば昌子に共感し、男性なら杉山の犯した間違いに同情するに違いない。筆者は昌子を見てはいつも、自分の言葉遣いや態度を反省させられる。

 倦怠期にある夫婦の再生の物語とはいえ、人生の悲喜こもごもが詰まった本作は、台詞に仕草にシーンに、何度見ても見飽きることがない。日本人には遠くなってしまった戦争も、戦友だった男たちが歌う「ツーツーレロレロ」という節を聴くと、生き抜いた彼らの胸の内を想像して熱くなる。名作すぎて今さら薦めるのも無粋だが、何度見ても生きていることの幸せをただ、噛みしめたくなる。

◎「早春 デジタル修復版」
発売・販売元:松竹
価格2800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2020年4月20日号