Teona Strugar Mitevska/1974年、旧ユーゴスラビア(現・北マケドニア)スコピエ生まれ。ニューヨーク大学で映画の修士号を取得。2001年、短編「VETA(原題)」で映画監督デビュー。本作はベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞とギルド映画賞をW受賞 (c)Ivan Blazhev
Teona Strugar Mitevska/1974年、旧ユーゴスラビア(現・北マケドニア)スコピエ生まれ。ニューヨーク大学で映画の修士号を取得。2001年、短編「VETA(原題)」で映画監督デビュー。本作はベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞とギルド映画賞をW受賞 (c)Ivan Blazhev
「ペトルーニャに祝福を」/社会の理不尽に対抗していく女性の姿を描く。2021年初夏、東京・岩波ホール他全国順次公開予定 (c)Pyramide International
「ペトルーニャに祝福を」/社会の理不尽に対抗していく女性の姿を描く。2021年初夏、東京・岩波ホール他全国順次公開予定 (c)Pyramide International
「早春 デジタル修復版」/発売・販売元:松竹、価格2800円+税/DVD発売中 (c)1956/2017 松竹株式会社
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 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【映画「ペトルーニャに祝福を」の場面写真はこちら】

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 東方正教を信仰する国で行われる「神現祭」。聖職者が川に投げ入れた十字架を最初に取った男性に1年間幸福が訪れるという。映画「ペトルーニャに祝福を」は2014年、マケドニアの神現祭で起きた、女性が十字架を取るという前代未聞の出来事を下敷きに制作された。テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督は、この出来事で露呈した社会構造や女性蔑視にいら立ちを覚えたと振り返る。

「私たちの国のシステムは、父権主義、家父長主義であることで私たちの現実を形づくってしまっている。だから戦い続けなければなりません。ただ、今が変化が起きるかもしれない時代なのは確か。自由に声をあげられる時代にはなりましたが、道のりはまだまだ長く、やらなければならないことは多い」

 とはいえ、本作はお堅いフェミニズム映画ではない。男性優位の社会で図らずも女性の幸せを問いかけることになったペトルーニャの、たくましくもチャーミングな姿をユーモアも交えて描く。

 太めで美人でもない32歳の独身女性ペトルーニャは、大学卒業後、一度も正規の職に就いたことがない。ウェイトレスをしながら両親と同居。そんな彼女に母親がある仕事の面接の約束を取りつけてくる。面接に気乗りしない娘に母親は何度も念を押す。「年齢は25歳と言うのよ」。しかし、男性の面接担当者に実年齢を告げれば、「42歳に見える」。セクハラまで受けて最悪の面接となった帰り道、ペトルーニャはキリストの受洗を祝う「神現祭」に遭遇。投げ込まれた十字架を見て思わず飛び込み、十字架を手に入れるが……。

 ペトルーニャを演じたゾリツァ・ヌシェヴァが圧巻だ。彼女は演劇界で活躍するコメディエンヌで映画初出演。監督は、「力強さのある目にハッとさせられ、すごく引かれた」。もともと脚本にはペトルーニャの身体的特徴は一切なく、「体の大きさやコンプレックス、自身の抱えているものなど、彼女に合わせて脚本に入れていくことになった」と言う。

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