その成果がこの展覧会だ。冒頭で紹介した鴻池さんと刀剣がコラボした作品では、巨大な皮の緞帳の間を、機械仕掛けの振り子が切り裂くように動く。そのさまを刀剣が見守るような会場構成になっている。当初は暗い空間で「皮緞帳」にスポットライトを当てて展示する予定だったという。

「けれど、いざ、展示室の照明をつけてみたら、鴻池さんから、明るい照明にしたいという要望があった。『皮緞帳』は鴻池さんの2015年の作品ですが、(見せ方が変わったため)見る人に皮という素材の力と新作に近い驚きを感じてもらえると思います」(同)

 そんなインスタレーションに見惚れているうちに、ふと地上に目を移すと、ガラスケースのなかの刀剣たちが、刀剣女子たちを夢中にさせる美しい姿とは違う、不気味な光を放っているように見えた。鴻池さん本人が言う。

「美術館のガラスケースのなかの美しいだけの刀剣ではない。刀剣ってそもそもは武器だったんだよと感じてもらえたらいいですね」

 展覧会では、鴻池さんと刀剣がコラボするこの展示室だけが、来場者の撮影が可能なエリアだ(ただし、一方向からのみ)。スマホのディスプレーを通しても変わらないその「映える」迫力を、展覧会後も堪能できる。

 滋賀・西明寺の「日光菩薩立像」「月光菩薩立像」という2体の仏像は、建築家の田根さんがコラボした。

 真っ暗な展示室を進んで行くと、実際に西明寺の僧たちがあげたという天台声明(仏教声楽曲)が流れ、全身漆箔で覆われた仏像が、複雑に計算された光の動きによって浮かび上がっては消えていく。作品が放つ強烈なオーラで鳥肌が立つ体験をしたのは、何年ぶりのことだろう。

「苦難を乗り越えるために、仏像に救いを求めてきた人たちの祈りを光で表現したかった」

 そう、田根さんは言う。新型コロナウイルスによる不安が日々増すなかで、この世のものとは思えないほど美しい仏像に祈らずにはいられない。

「仏像のお顔の表情が、光によってどんどん変わっていく。ときに柔らかく、ときに荘厳に畏怖の念を感じたり。光が放たれたときの水晶の目の輝きなども見てほしいです」(田根さん)

(ライター・福光恵)

AERA 2020年4月20日号より抜粋