昔はト書き(俳優の動きを書いたもの)に「泣く」と書いてあると「わ、ちゃんと泣けるかな?」と思い、緊張していたんです。本当に大切なのは、相手の言葉や前後の出来事から気持ちを想像することなのに、脚本に書かれた文字だけを追って、惑わされていたんですね。

 実際に泣けるかどうかは演じてみるまではわからないところがあって、その場に立ってみると、「意外と泣けないな」と思うこともあります。そうした感情は素直に出していきたいし、悩んだときには監督に相談します。

 そうやって葛藤しながらも一つ一つのシーンを丁寧に撮っていけるのは、映画のよさだと思っていますし、自分の性格にも合っているのかもしれません。

 今、取り組んでいること、現場で自分に課していることはあるのかと尋ねると、意外な答えが返ってきた。

小松:走ることですね。「恋は雨上がりのように」(18年)という作品で陸上部の元エースを演じてから、日常生活のなかでも走る時間をつくるようになりました。映画の撮影に入っても、早く終わる日は走っています。そのために早起きをすることもありますね。1時間以内ですが、走るようになってから、集中力が格段に上がりました。

 撮影には常に全力で臨みたい、と思っていますが、撮影中は考えなければいけないことも多く煮詰まってしまうこともあるんです。役柄にのめり込んでしまうこともありますし。

 でも、走っているときは無の状態になれる。そこで煮詰まっていた頭がスッキリして、「次はこんなふうに台詞を言ってみよう」と、アイデアも浮かびやすくなるんです。

「糸」の撮影中は、沖縄のシーンでは時間があれば海にプカプカ浮いたりして自然に触れて、リフレッシュしていました。忙しいときでも違うことをして切り替えることって、自分にとってはすごく重要なことなんだと思います。

 俳優とモデルの仕事を並行していますが、両方の仕事をさせていただいているからこそ、どちらにも真剣にまっすぐに向き合える気がします。二つの仕事をすることで、自分のなかでのバランスを保っているのかもしれません。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2020年4月20日号