都内でも、永寿総合病院慶応大学病院、東京慈恵会医科大学付属病院などの地域医療や高度医療を担う病院で院内感染が疑われる事案があり、各病院は機能停止に陥った。

 当然、町の医療機関にも影響は出ている。都内の40代の男性開業医はこう話した。

「発熱がある患者さんについて、コロナの可能性があるからと診療所が拒否したり、また、救急車が30件断られたりするなど間接的な影響は大きくなっています。感染患者を直接診ていない医療関係者にもストレス度は高くなってきています」

 医療ガバナンス研究所の上昌広理事長も、医療崩壊は今後、各地で現実味を帯びると考える。

 原因の一つは、コロナ禍で病院の患者が減り、経営を圧迫していることにあるという。

「小児科や整形外科などが大きく減らしています。経営難に陥る施設が出てくるでしょう」

 もう一つは、今後、医師の死亡例が出てくることで医療崩壊を起こす可能性だという。

 同研究所のインターンで、ハンガリーのブダペストにある国立センメルワイス大学医学部生の吉田いづみさんが4月3日時点の状況をまとめたグラフによると、例えばイタリアなら、感染者が100人いて、医師が治療にあたったとき、院内感染で0.06人近くの医師が死亡するという。イタリアに次いで中国が多く、同じく100人感染者がいたときに、0.04人ほどが亡くなる計算だ。死亡する医師は開業医が一番多く、眼科や歯科なども多いという。

「医師が死にだすと、一気に『防御医療』になっていきます。患者を診なくなるということです。先進国の中でこれほど多くの院内感染を出している日本でも、こうした医師の死亡を契機にして医療崩壊を起こしていく可能性があります」(上医師)

 どうすればいいのか。

「診断と隔離が鉄則ですが、今回の新型コロナウイルスではそれがまったくできていません。クラスター対策に偏った日本の方針を、これから変えていかなければ日本の医療は崩壊する可能性があります」

 東京などの7都府県では知事が緊急事態の措置をとる。東京都医師会の猪口正孝副会長は「それによって最も期待するのは、感染者自体が減ることだ」と話す。医療崩壊を食い止めるには、「診断と隔離」を重視する対策方針の転換に加え、「うつされない」「うつさない」を心がける国民の意識も問われている。(編集部・小田健司)

AERA 2020年4月20日号より抜粋