同校キャリア支援部の鈴木邦昌さんが大手予備校を経てN高に着任した約2年前、進学希望者のなかで夏の模試を受けたことがある生徒は少なかった。鈴木さんは言う。

「N高には多様な生徒が集まっており、大学受験までの道筋を知らない生徒も多かった。現在は進学を希望する生徒に進路ガイダンスを開き、模試を受けるよう指導するほか、オンラインでさまざまな支援をしています」

 競い合うことで学習意欲が高まる生徒もいれば、自分のペースで黙々と学びたい生徒もいる。生徒の性格に合わせてSlackのチャンネルを作り、ときにはスタンプや絵文字を使って生徒の本音を聞きだす。必要に応じてビデオツール「Zoom」を使ったオンライン面談も取り入れている。

「受験は団体戦」とも言われるが、Slack上ではその言葉通り活発なやり取りが繰り広げられている。成績や進路などのプライベートな相談は担当職員と個別で行うが、複数人が他愛ない会話で盛り上がるチャンネルもある。現役東大生が参加するチャンネルでは、他の受験生がした質問で、自分が意識していなかった情報を得られるのも魅力だという。前出の男子生徒も、このシステムを利用した。

「現役東大生からは大学の話が聞けて楽しいし、一人で受験しているという孤独感はありませんでした」(男子生徒)

 今年、同校は京都大や私立大医学部への合格者も輩出したが、あくまでも一つの指標に過ぎないと鈴木さんは言う。

「N高では、偏差値ベースの指導はしたくない。オリンピックのメダルを目指すのも、東大合格を目指すのも、就職を目指すのも同じフィールドなんです。生徒には、自分が決めた選択肢が一番正しいのだと伝えています」

(編集部・福井しほ)

AERA 2020年4月20日号

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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