安倍首相の緊急事態宣言を受け、人通りが途絶えた通りを見つめる女性従業員。経済的危機はあらゆる業界に迫っている(撮影/小山幸佑)
安倍首相の緊急事態宣言を受け、人通りが途絶えた通りを見つめる女性従業員。経済的危機はあらゆる業界に迫っている(撮影/小山幸佑)

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための休校に伴い厚生労働省が新設した補償制度で、政府は当初、風俗関係者を休業補償の対象外とするとしていた。これは世論の反発を受けて撤回に追い込まれたが、法の下の平等という憲法の大原則を無視した事実は消せない。AERA 2020年4月20日号では、風俗関係者への支援の必要性について改めて考えた。

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 風俗関係者からの依頼も多いというグラディアトル法律事務所(東京都)の若林翔弁護士は、「支援の必要性」をまずは考えるべきだと主張する。今回の新型コロナの問題では、多くの風俗関係者からも相談が寄せられているという。

「実態として、夜の世界で働く人たちにはもともと経済的に恵まれない環境にいた方や、シングルマザーの方も多い。そもそも他の業種より経済的支援の必要性が高い事例が多く、であれば、その人たちにも支援は届くべきだと考えます」

 武蔵野美術大学の志田陽子教授(憲法学)は、感染拡大防止の観点からも政府の判断は誤りだったと指摘する。風俗業の労働者が支援を受けられず無理な出勤を続けることが、さらなる感染拡大の原因にもなりかねないと推測し、「政策的にはこうした業界に現金ケアをすることは重要だったはずです」と話す。

「自粛要請があっても、人間は生きるための必要が生じれば生存することを選ぶし、そのことは誰にも責められません」(志田教授)。関西のソープランドに勤める女性(48)もその一人かもしれない。

 女性が風俗の道に入ったきっかけは、10年ほど前の離婚だった。専業主婦だったが、精神疾患を患い掃除や洗濯、食事の準備などが思うようにできなくなった。元夫はそれに理解を示さなかった。ある時、ひどい暴力をふるわれて大けがをした。慰謝料をもらって調停離婚した。

 ところが、2人の子どもを養うだけの仕事は見つからなかった。ファッションヘルスから業界に入って、5年ほど前からはソープランドで働いている。

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