稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
近くのお寺の横を通るたびにお参り。手を合わせるとまずは落ち着きます(本人提供)
近くのお寺の横を通るたびにお参り。手を合わせるとまずは落ち着きます(本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 日本酒マニアなので飲食店を営む友人が多い。ゆえにコロナによる大打撃は他人事と思えず、せめてもと近所の食堂やバルの空いている時間帯に一人顔を出していたのだが、それすら難しくなりそうだ。ああ一体どうしたらいいんだーとヤキモキしていたら、周囲は私の想像を超える勢いで進化していくのであった。

 当初は店の悲鳴が溢れていた我がフェイスブックは、急速に別の発信で埋まり始めた。友人の店は席数を減らして2メートルの間隔をあけ、窓は全開、店が混まぬよう予約客だけで営業するという。何が正解かはわからないけれど、こんな時だから安心して寛げる場所を提供したいと。なるほど! 晩酌用テイクアウトを始めた店もある。経営も大事だけどみんなの安全はもっと大事。苦しいけれど、自分たちの役割を見つめ直してやるべきことを考える。今はそのチャンスかもとの声に頭が下がる。

 すごいなあと思っていたら、今度はそんな店の情報を集めて発信する人が出てきた。国に対し飲食店やライブハウスの存続支援を求める署名も回ってきた。「こんなときに寄付を募るのは恥ずかしくない」と、飲食店に募金箱を置こうと呼びかけを始めた人もいる。

 みんなヤキモキしてるだけじゃない。自分だけ難を逃れればいいとも思っていない。そして前進している。

 私には何ができるのかな?

 近所の喫茶店に行ったら、ママが「パスタあるの? うちは箱で買ってるからなくなったら言ってね」と言ってくれた。実際にはもらうことはないと思うがその気持ちが嬉しくてキュンとする。幸せ余って、帰りに寄った豆腐屋で「この店さえ開いていたら私は食べていける!」と感謝の意を表明したら、ご主人があれまあ嬉しいこと言ってくれるじゃないと背中をポンと叩いてくれた。

 こんなやりとりもできなくなる時が来るのかもしれない。でもそんな人たちが住む町に自分も住んでいる。そのことを噛み締めている。まずはちゃんと噛み締めようと思う。

AERA 2020年4月13日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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