環境中のウイルスを可視化するユニークな取り組みを進める企業もある。ゲノムクリニックは次世代シークエンサーと呼ばれるゲノム配列の解析技術を用い、ドアノブやつり革、空気中のウイルスや細菌を特定するシステムの開発を進める。綿棒で表面をぬぐう、部屋の空気をフィルターに通すなどして検体を採取、機械にかけると、新型コロナウイルスのほか、インフルエンザウイルスや細菌性感染症の元となる病原菌も見つけ出せるという。

 実用化されれば流行発生前にアラートを発したり、病院やホテル、スポーツジムの安全性評価に用いたりできる可能性がある。同社の曽根原弘樹代表取締役は、マスクや除菌スプレーなどから一歩進んだ感染症対策として、この技術を提唱する。

「ウイルスはある程度の期間、環境に残存します。また、流行が収束しても施設には人が戻らないかもしれません。この技術を安全証明のひとつの指針にできるのではと考えています」

 現在は素材、ウイルスの濃度、経過時間ごとの検出テストを始める段階だ。3カ月後をめどに実地テストに移りたいという。

「感染症はいったん流行が収まった後に第2波が来ることがあります。今回もあるとすれば、それまでには完成させたいと思っています」(曽根原代表)

 感染症対策の現場でベンチャー企業が果たす役割は大きい。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広医師は言う。

「創薬では、研究開発をベンチャーが担い、成功した企業をメガファーマが買収し商品化する流れができています。小回りが利き技術力があるベンチャーが力を発揮するケースは多い。外国企業のスピード感は日本以上ですが、国際競争に勝てる技術の出現を期待したいです」

(編集部・川口穣)

AERA 2020年4月13日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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