医療ガバナンス研究所の上昌広理事長(51)は「すでに感染爆発は起きている」との認識だ。

「欧米でオーバーシュートが起きた後、東京で突然、感染者が増加しているように映るかもしれませんが、そんなことはあり得ません」

 日本ではPCR検査を積極的に実施してこなかったため、表面上、感染者数が抑えられているにすぎない、という。上理事長は、都が発表する感染者数は潜在していた感染者が医療機関などで集団感染を引き起こしている実態が表面化したり、帰国者の検査を徹底したりすることによって数字を押し上げている面が大きいと指摘する。

「欧米の状況を見てパニック状態に陥り、東京でもロックダウン(都市封鎖)すべきだという機運に向かいつつあるが、そうなると守れる命も守れなくなる」

 上理事長はそう警鐘を鳴らす。

 小池知事が会見で口にしたことで注目が集まったロックダウン。実際に行われると、高齢者はますます家に閉じこもり、散歩などで適度に体を動かす機会も減るため高血圧や糖尿病が悪化するリスクが高まる。そんな中、感染者が病院に殺到すれば医療従事者への感染が広まり、新型ウイルス以外の患者も治療を受けられなくなる──。万全の医療態勢の確保が困難な現状では、そんな悪循環が見込まれるという。

一方、最悪のペースで感染拡大が進んだ場合も、日本では医療崩壊さえ阻止できれば亡くなる人は限定的、と上理事長は見る。着目するのは、欧米と東アジアでの致死率の違いだ。

「イタリアなど欧州の致死率は5~10%なのに比べ、韓国や湖北省以外の中国では1~2%で推移しています。日本は3%台ですが、これは検査数が少ないためで、実際の致死率はもっと低いはずです」

 イタリアなどの致死率の高さは医療崩壊が招いたとの指摘もあるが、上理事長は別の見方を示す。医療崩壊は重症者が一挙に膨らんだときに起こるが、東アジアでは感染者の多い地域でも中国の湖北省以外でそうした事態に至っていないからだ。

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