今回のコレクションの提案は、図らずも不穏な空気を反映したかのようなクラシックでエレガンスな「基本への回帰」である。大型小売店の倒産など、暗い影が落ちるファッション界に最も必要なトレンドと言えよう。

 パリのミュウミュウは1940年代のカールヘアで成熟した雰囲気の女性像を打ち出し、古典の持つ美しさに官能を加え、ほっそりしたマキシ丈の魅力的な服へ一捻りした。

 サンローランは、80~90年代に一世を風靡したオレンジにピンクという艶やかカラーを再現。フェティッシュなラテックスのボトムと合わせることで、英国調のテーラードジャケットをモダンに蘇らせた。

 クラシックの正統性を生かしながら、丈やボリュームのバランスや配色の妙で新しい命を吹き込んだ今季のトレンドは、リアルかつ夢に溢れたものだった。

 前シーズンに続き「サステナビリティ」への関心は高く、ブランド独自の開発やサステナブルに特化したカプセルコレクションの発表など、インフラとして整備された感がある。動物を使用しない「ビーガンレザー」は言うに及ばず、再生可能なカシミア、アニマルフリーの接着剤、アップサイクルのエキゾチックレザー、通常の10分の1の時間で生分解するナイロン繊維などが意欲的に開発されている。

 先行き不透明な現在だからこそ、ファッションはその原点に返り、新たな希望に満ちた問いかけが始まったと言えよう。躍動する心、勇気、癒し、共感、ユーモア。祈りにも似た思いが込められたコレクションだった。(ジャーナリスト・藤岡篤子)

AERA 2020年4月6日号