子ども時代は吃音に悩まされた。7年生(日本の中1)の音読で、「ジェントルマン」を「ジェントル・マン」と二つの単語のように読んでしまい、教師に「ミスター、ブ、ブ、ブ、バイデン」と呼ばれ、黙って教室を離れたというエピソードがある。バイデン氏は吃音を克服するために、一人、鏡の前で詩の朗読をしたという。

 上院議員に当選した直後の1972年には、妻が運転するワゴンにトレーラーが衝突、妻と1歳の娘が亡くなり、長男のボーと次男のハンターが重症を負った。バイデン氏は議員就任後、生き残った息子たちのためにワシントンに家を借りず、デラウェア州から特急で1時間半あまりの通勤を続けたのは有名だ。長男ボー氏は、46歳でがんで亡くなった。

 バイデン氏のエピソードには、彼の人柄の良さを感じさせるものが多い。一方で、失言や迷言が目立つのは弱点だ。

 ストリーミング会見でテレプロンプターが故障すると、混乱してこんな発言を繰り返した。

「えー、さらに、さらに、私たちが確認しなければならないのは、私たち、私たちが今の状況にあるのは。えーと、次に行こうか。もう十分話したから」

 昨年6月から開かれていた民主党候補テレビ討論会では、一度吃音が出ると止まらず、専門用語が出なかったり、「hard」といった簡単な言葉でつまってしまった。

 本選ではトランプ氏と一騎打ちのテレビ討論会が待っている。考えがまとまらなくなると発言が迷走してしまうバイデン氏が、弾丸のようにライバルを攻撃するトランプ氏と渡り合えるのか不安が残る。

 革新派のサンダース氏では民主党をまとめきれないという理由で、民主党は穏健派のバイデン氏を民主党候補に指名する可能性が高い。果たしてバイデン氏は、その指名に堪えることができるのだろうか。(ジャーナリスト・津山恵子【ニューヨーク】)

AERA 2020年4月6日号