例えば、60年代中頃のディランって、フランスのヌーヴェル・ヴァーグ期の映画を見ているような感じがします。ルイス・ブニュエルとかゴダールとか、訳がわからないなりに映像としての面白さがある。

 ディランの「Desolation Row」や「Highway 61 Revisited」は、同じようにメチャクチャでしょ。イメージの連続。理解しようとしても無理があります。だけど、一つ一つ描かれている描写を想像してみると面白いんです。

 ただ、やっぱり彼がやっているのは音楽なんです。みんなディランの歌詞ばかりを集中的に語りたがりますが、音楽は人が歌う。メロディーがある。編曲もあって、レコードなら全体のサウンドもあります。ディランの歌詞を本で読んだとき、レコードほどのインパクトを受けるかというと、そうではないと思います。言葉をそれほど理解しようとしなくても、純粋に音楽として聴く価値がある作品が多いのです。

 初めての人が聴くなら、60年代の代表的な傑作アルバムから入るとスムーズに入ることができると思います。私もあの時代の音楽をもっとラジオなどで流したいと思います。(編集部・小田健司)

AERA 2020年4月6日号より抜粋