「GQ Japan」2000年2月号のボブ・ディラン特集や、2005年に発売された未発表インタビュー集付きの『ボブ・ディラン スクラップブック』は、筆者が25年がかりで集めたものの一部。とにかく見つければ買う。あるだけで満足のファン心理。普段は見ない(撮影/写真部・高野楓菜)
「GQ Japan」2000年2月号のボブ・ディラン特集や、2005年に発売された未発表インタビュー集付きの『ボブ・ディラン スクラップブック』は、筆者が25年がかりで集めたものの一部。とにかく見つければ買う。あるだけで満足のファン心理。普段は見ない(撮影/写真部・高野楓菜)
AERA 2020年4月6日号より(イラスト:土井ラブ平)
AERA 2020年4月6日号より(イラスト:土井ラブ平)
2018年の「フジロック」にはディランが初出演。ノーベル文学賞受賞後の国内初ステージに多くのファンが訪れた。「風に吹かれて」などを歌った (c)朝日新聞社
2018年の「フジロック」にはディランが初出演。ノーベル文学賞受賞後の国内初ステージに多くのファンが訪れた。「風に吹かれて」などを歌った (c)朝日新聞社

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、ウドー音楽事務所(東京)が、ボブ・ディランのライブ公演中止を発表した。ライブには残念ながら足を運べないが、これを機にディランへの理解を深めてみようということで、AERA 2020年4月6日号では有識者に話を聞き、ボブ・ディランと「文学」の奥深い関係について読み解いてみた。

【これが聞きたかった!記者の妄想セットリストはこちら】

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 ディランが傾倒していたフォーク歌手のウディ・ガスリー(1912~67)で、『ボブ・ディラン自伝』(05年、菅野ヘッケル訳)ではこう言及されている。

「ニューヨークに来たのは、レコードで聴いていたシンガーを見るためだった(中略)なかでもいちばん会いたいのはウディ・ガスリーだった」

 この曲は、ディランの原点にある曲の一つと言っても過言ではない。そんなディランの作品が、メルヴィルの『白鯨』やスコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』などと一緒に、権威ある文学史本に載る。文学がディランを受容し始めたわけだ。その結果、こんなことが起きたと日本女子大学文学部の馬場聡准教授(44)は考える。

「そもそもディランは卓越した言語表現を駆使して普遍的なテーマを扱ってきましたが、文学史本による言及やノーベル文学賞受賞によって、高級文化と大衆文化の境界線が融解したと言えるでしょう」

 次の問題は、ディランをどう聴けばいいかだ。しかも、今までより一歩進んだ聴き方をしたい。「Time out of Mind」(97年)以来のファンだという、青山学院大学文学部の齊藤弘平准教授(41)に聞いた。

「ディランの本質と言えば言いすぎかもしれませんが、勘所がここにあるのではないかと思っています」

 齊藤准教授が示したのは、3枚目のアルバム「The Times They Are A−Changin’」(64年)の裏ジャケットに掲載されている自由詩だった。

 ディランはその後、曲とは別にジャケットに自作の自由詩を載せている。CDだと虫眼鏡が必要なほど小さな字でびっしりと印刷されているため、読んだことがある人と出会ったのは筆者も初めてだったが、紹介したい。

 タイトルは「11OUTLINED EPITAPHS」。11のあらましな墓碑銘、などと訳される詩だが、齊藤准教授が解説する。

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