前出のスーパーの男性は疑念をこう語った。

「メッセージを国民に適切に伝えようとしているとも思えません。伝わったのは、『持ちこたえている』というメッセージだけで、それによって国民が緩んだのではないでしょうか」

 確かに対応はあまりにちぐはぐだ。24日、萩生田光一文部科学相は、休校にしている学校の再開を一定の条件下で認める方針を出したばかりだ。だが、翌25日の小池知事の会見では、オーバーシュートやロックダウンが注目を集めた。

 会見の前日夜、東京五輪・パラリンピックの開催をめぐって安倍晋三首相と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が電話で協議をしたうえで、「1年程度の延期」を検討することが決まった直後だった。

 政治評論家の有馬晴海さんはこうみている。

「オリンピックの延期がひとまず決まって、障害が取れたのです。7月に投開票がある都知事選でも、これまで連携してこなかった自民党が候補者擁立を断念したばかりで、今は怖いものなし、思うようにできる状況なのでしょう」

 都政に詳しい中央大学の佐々木信夫名誉教授も、五輪の延期が小池知事の言動に強く影響したとの考えを示したうえで、“封鎖”に関してはこんな見方を示す。

「封鎖した場合は、東京への出入りを止めることになり、経済活動が止まります。大きなダメージの引き金を引くことになり、一知事の権限でここまでしていいものか疑問です。首都崩壊の危機を招く可能性すらある。補償の話も出てくるでしょうが、都財政は五輪延期で経費がさらに膨らみ、基金はもう底をついている。都債を大量発行する可能性がありますが、都民の負担増に直結する話。“封鎖”は時期尚早。慎重にやらなければいけないでしょう」

 ただし、レールは着々と敷かれている。26日には、新型コロナウイルスの特別措置法に基づき、「政府対策本部」が設置された。安倍首相が緊急事態宣言を出すにあたっての手続きで、宣言が出れば、都道府県知事の権限によって、住民の外出自粛や、学校、老人福祉施設などの使用停止など、市民の権利を制限するもろもろの要請・指示ができる。従わない場合に罰則があるケースもある。(編集部・小田健司)

【「五輪開催するなら封鎖しかない」 免疫獲得か終息か「東京封鎖」の現実味】へつづく

AERA 2020年4月6日号より抜粋