時折、いたずらな目で笑う。創業メンバーは言う。「広津は、夢を実現する近道は何?と。それしか考えていない」/撮影:伊ケ崎忍
時折、いたずらな目で笑う。創業メンバーは言う。「広津は、夢を実現する近道は何?と。それしか考えていない」/撮影:伊ケ崎忍
検査センター 今年1月、広津は稼働を始めた「N-NOSE」の検査センター(東京都日野市)を視察。室内には、検査の処理能力を高めるために導入された自動解析装置が並ぶ。この日、部屋の一角では、新人研修も行われていた/撮影:伊ケ崎忍
検査センター 今年1月、広津は稼働を始めた「N-NOSE」の検査センター(東京都日野市)を視察。室内には、検査の処理能力を高めるために導入された自動解析装置が並ぶ。この日、部屋の一角では、新人研修も行われていた/撮影:伊ケ崎忍

 今年1月、「線虫」を使った新しいがん検査が実用化し、大きな話題となった。それは線虫はがんにかかった人の尿には寄っていき、かかっていない人の尿からは離れていく。この線虫の行動を利用して、がんの有無を見分ける。実用化にこぎつけた広津崇亮さんは、線虫の研究者でもある。金儲けのためでなく、もっと技術を広めたいのだと力をこめる。

【写真】東京・日野市にある「N-NOSE」の検査センターにて

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 今年1月、広津崇亮(ひろつ・たかあき 47)が社長を務める東京都港区の「HIROTSUバイオサイエンス」は、世界初の“線虫がん検査”である「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」を実用化した。

 それは、「線虫」を使う検査。体長約1ミリの、ニョロニョロとうごめく「C.elegans(シーエレガンス)」という名の線虫である。

 検査方法は、実にシンプルだ。尿1滴をシャーレに垂らし、線虫を置くと、がんである人の尿だと、寄っていく。がんではない人の尿だと、離れていく──。

 これは、好きな匂いに寄っていく「誘引行動」と、嫌いな匂いから逃げる「忌避行動」という、線虫特有の行動を生かして、がんの有無を見分ける検査なのだ。

 今のところ、胃、大腸、肺、乳、膵臓(すいぞう)、肝臓、子宮、前立腺など、15種のがんの人の尿に反応するとわかっている。

 精度も高い。約3千例を解析した2019年12月末の段階で、がんである人をがんだと判定する「感度」は82・9%。がんでない人をがんではないと判定する「特異度」は85・5%。がんのステージ(病期)ごとの感度は、ステージ0、1という早期の段階で87%と、良好な結果が得られている。

「常識に囚(とら)われず、がん検査の仕組みや、人々のがんに対する意識そのものを変えたい」

 こう話す広津は、線虫検査を、がんの早期発見につなげる「1次スクリーニング検査」と位置づける。受けた結果、がんのリスクが高いと判定された人が、2次スクリーニング検査として「5大がん検診」を受け、がん種を特定する。そんな検査の流れを新たに作りたいのだと言う。

「日本人の5大がん検診の受診率は4割程度なんですね。受けない理由の筆頭は、忙しいからだと。入り口に『拾い出し』のスクリーニング検査があれば、早い段階でがんのリスクが高いとわかる。そうすれば、みんなが検診を受けようとする動機になるかもしれないと思ったんですよ」

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