心愛さんが亡くなる3カ月前の2018年10月に書いた「自分への手紙」。優しくて、頑張り屋だったという心愛さん。生きていれば、春から小学6年生だった (c)朝日新聞社
心愛さんが亡くなる3カ月前の2018年10月に書いた「自分への手紙」。優しくて、頑張り屋だったという心愛さん。生きていれば、春から小学6年生だった (c)朝日新聞社
AERA 2020年3月30日号より
AERA 2020年3月30日号より

 千葉県野田市の栗原心愛(みあ)さん虐待死事件で、父親に懲役16年の判決が出された。凄惨で非道な事件はなぜ起きたのか。私たちはこの事件から「次」を起こさないためのすべを学ばなければならない。AERA 2020年3月30日号では、事件をめぐる背景を取材した。

【心愛さん虐待死事件の主な経緯はこちら】

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 なぜ勇気を持って「SOS」を発した幼い命を守れなかったのか。娘に虐待を繰り返す父親を、なぜ見逃したのか。事件を巡っては行政のずさんな対応が次々と明らかになった。

 2017年11月、心愛さんは小学校のアンケートで「お父さんにぼう力を受けています。先生、どうにかできませんか」と訴えた。県の柏児童相談所は翌日には心愛さんを一時保護し、児童精神科医が心愛さんをPTSDと診断した。にもかかわらず2週間後には、同児相は被告方の祖父母が引き取ることを条件に一時保護を解除した。さらに翌18年1月、野田市教育委員会は、心愛さんが書いたアンケートのコピーを勇一郎被告の求めに応じ、渡した。同年4月に児相の所長が交代した後は、心愛さんとの面会は行われず、19年1月に事件が起きた。

「救えた命だった」

 そう話すのは、東京経営短期大学の小木曽宏教授(児童福祉)だ。今回の事件の、検証委員会副委員長を務めた。

 全国の自治体では重大な虐待事件が起きた際、再発防止を目的に専門家からなる検証委員が「検証報告書」を作成し、知事への答申が求められている。千葉県でも過去5回、虐待死に関する検証報告書が作られている。

 06年に県内で起きた児童虐待死を受け08年2月に出された答申から、検証委員会に加わっている小木曽教授は批判する。

「検証報告書では毎回、改善案を出していますが、改善に結びつかない。報告書が形骸化し、再発防止に活用されていない」

 例えば、18年5月に出された答申。生後8カ月の男児が県内で虐待死した事件の検証報告書では、「虐待の予防に向けた取り組みの強化」として、次のような提言を記した。

「DVの疑いがある場合は、単に暴力の有無だけに注目するのではなく、家族関係、特に支配・被支配の関係性に目を向けると同時に、虐待が隠蔽されやすいことにも留意する必要がある」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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