「僕はこれからも松本清張みたいに謎を解いていくような小説は書けないと思う。自分の実感がベースにないと書けないタイプですから。今回、死んでしまった信也のことを書いたのは、彼にもいろんな人間関係があったことを書きたかったからです」

 重松さんは東日本大震災後、ずっと被災地に通い、死者と生者の関係を考えてきた。

「去年、一人娘のお骨が見つかったというご夫婦がいて、『これで手を合わせる場ができた』と喜んでいらしたんです。小説では洋一郎が最後に信也の遺骨を島に散骨しますが、手を合わせる場ができたという点では同じです」

 生者と死者は遠く隔てられていても新たな関係を築くことができる。そこにほのかな希望を感じさせて物語は終わる。(ライター・千葉望)

■八重洲ブックセンターの川原敏治さんオススメの一冊

『QRコードの奇跡モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ』は、日本発で世界に普及し続ける技術、QRコードについて紹介する一冊。八重洲ブックセンターの川原敏治さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 自動車業界の商品管理にルーツをもつ、日本で開発されたQRコード。現在では、商品管理はもちろん、チケットの発券、各種決済、ホームドアなど、開発者の思惑とはまったく異なる方向に発展し、世界各地で使用されるまでになった。

 そんなQRコードの開発から普及と進化に至るまでの物語を緻密な取材をもとに、臨場感たっぷりに描く本書は、ビジネス小説のような読みやすさと面白さをあわせ持つ。

 さらに、最初は1社の発想で開発されたものが、多様な業種の人が関わっていくことで発展していく商品開発の様子や、特許を開放し、ユーザー側の発想や視点を取り込むことで変化していく過程なども紹介。

 商品開発のみならず、経営に役立つノウハウも多い。経営の参考書としても役立つ一冊だ。

AERA 2020年3月30日号