「例えば地球の温度上昇による大災害を指摘し、その現実を回避しようとするアメリカのサンライズ・ムーヴメントやイギリスのエクスティンクション・リベリオンなどに強く共感するよ。彼らは現実的に行動を起こしているんだ。何もしていない自分は問題の一部でしかない、恥ずかしいと感じる。プラスティックボトルを使ったり車を運転したり飛行機に乗ったり。僕がやっていることと言ったらゾンビ映画を作るだけじゃないか!!」と自戒する。

 数多く登場するキャラクターの中で、個人的には森で生活する隠者ボブ(トム・ウェイツ)と拘置所の若者たちに最も共感しているという。

「僕は10代の若者に大きな期待をかけているんだ。モーツァルトやキャロル・キングの初期の曲、ビリー・アイリッシュ、どれも天才的だと思うしね。グレタ・トゥーンベリにしろ凄い。とにかく10代が創り出すものは素晴らしい。ティーンエイジャーこそが、われわれの未来だよ!」

 一見ゾンビの終末劇に映るこの映画、意外や彼が未来へ託す希望の光なのかも。

◎「デッド・ドント・ダイ」
アメリカの田舎町センターヴィルで、前代未聞の怪事件が発生し──。4月3日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD 「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」

 ゾンビより吸血鬼が好きというジャームッシュ監督。吸血鬼の知的で洗練されていてミステリアスな点に惹かれると言う。「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」は何世紀にもわたり生きてきたアダム(トム・ヒドルストン)とイヴ(ティルダ・スウィントン)の吸血鬼夫婦が主人公。米デトロイトやモロッコのタンジールといった映画的な町の夜景を背景にアダムの吸血鬼としてのアイデンティティーの危機とイヴやイヴの妹エヴァ(ミア・ワシコウスカ)との関係をユーモラスに描く。

 アダムはロックミュージシャンという設定で、スタジオ兼住居はジャームッシュ監督の好きな本や絵や写真、ギターやアンプなどであふれる。アダムはあたかも彼の化身のような存在なのかも。現代に生きるアダムとイヴだが、シェイクスピア時代のクリストファー・マーロウ(故ジョン・ハート)や17世紀の英作曲家のヘンリー・パーセルに触れながら物語は時代を超えて展開。全編を通し監督の文学や芸術への深い愛がにじみ出る。SQURLというバンドをやっているジャームッシュ監督、サントラはこのバンドが手掛ける。映画監督だけでは終わらない人なのだ。

◎「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」
発売・販売元:東宝
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・高野裕子)

AERA 2020年3月30日号